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第10話

「ふ…ざけるなよっ」 あまりに理不尽な言動と行動に、怒りと羞恥でクラクラする。好き勝手に翻弄される身にもなってみろ!と怒鳴り散らしてやりたい。 だが、怒っているのは俺だけじゃなかった。 「ふざけてるのはお前の方だ。…来い」 「ちょっと、…なんだよ!」 体を離したかと思えば、御堂は遠慮のない馬鹿力で俺の腕を掴み、問答無用の強引さで歩き出す。 逃げようにも逃げられない状況に、ただひたすら焦燥感だけが募ったまま、ロビーを出て上の階に引き摺られていった。 足で蹴り上げるように開かれたドアからは、バタン!という大きな音が鳴り響き、俺の抵抗など微塵も感じていない力強さで部屋の中へ押し込められた。 よく知った景色。ここは、俺の寮部屋と全く同じ。 この場合、誰の部屋かなんて事は考えなくてもわかる。 御堂龍司の部屋だ。 理由はわからないが、噂では、同室者のいない一人部屋だと言われている。その部屋に、俺の背中を押した本人も後から入ってきた。 廊下と部屋とを隔てるドアが閉ざされると、途端に空気が張り詰める。 シンと静まりかえる中に強調される自分達の気配だけが、こんな時ばかりはやけに鮮明に感じとれて、逃げ出したい衝動が沸き起こる。 「こんな所に連れてきて、どういうつもりだよ」 背後にいる相手を振り返って睨みつけながら言うと、御堂はいまだ怒りを湛えたままの表情でフッと鼻先で笑った。 「わざわざ聞かなくても、お前ならもうわかってんだろ」 「アンタの考えてる事なんて、俺にわかるわけないだろ」 「わからない、じゃなくて、わかりたくない、の間違いじゃないのか?」 「………」 図星を指されて、グッと唇を噛みしめた。 御堂が自分の部屋に俺を連れ込む理由なんて一つしかない。そんなのはわかってる。けれど、わからない振りでもしないとそれが本当の事になりそうで…、怯んでしまう。 そして、そんな胸の内を読み取られていた事が、無性に悔しくなった。 御堂が俺の事を抱きたがっているなんて、信じたくない。今から何をするつもりか、なんて、考えたくもない。 その時、目の前に立っている体がフッと動いた。 ドクッと激しく鳴った心臓と止まる呼吸。次の瞬間、腕を引っ張られて浚われるような強さできつく抱きしめられた。 「…ッ…ぅ…」 離せよ!! そんな言葉は吐息と共に絡めとられ、全て御堂の口内へ消えていく。 傍若無人に這いまわる舌が口腔内を犯し、何もかもを奪われるかのように激しく貪られる。吸い付かれ、嬲られ、口端からどちらのものともつかない唾液が伝い落ちていく感覚すら気にする事が出来ない程に、激しく食らい付かれた。 拳で御堂の鎖骨辺りを殴っても、離れるどころか尚更強く腕が背を締め付ける。余計に苦しさが増すだけ。 苦しいだけならまだいい。けれど、御堂はモテるというだけあって、百戦錬磨だと言える程にキスが上手かった。認めたくはないが、徐々に足の力が抜けてくる。 これ以上続けられたら…ヤバい。 「…ン…っは…ァ…」 御堂の大きな口が角度を変える度に、声が抑えられなくなってきた。下唇を甘噛みされただけで背筋に甘い痺れがはしる。 その隙を突かれた。 足元を払われ、衝撃と共に床にぶつかる背中の痛みに、思わず呻き声がこぼれ出る。 いつの間にか唇が解放された事にも気付かず、思考が追い付かないまま荒い呼吸を繰り返した。 閉じてしまった瞼を開くと、目の前には欲情を滾らせた男の顔。 …逃げられない…ッ。 絶対にありえないと思っていた現実がすぐそこまで近づいてきている状況に、頭の中が真っ白に凍りつく。 「……冗談…だよな」 「勝手にそう思ってろ」 「や…めろっ!」 御堂の手が、シャツの裾から入り込んできた。直に触れるその大きな手が脇腹から胸元を撫で始める。ゾクリと這い上がる感覚に恐怖を覚えて、足を蹴り上げた。 そんな抵抗は、黒帯を持つこの男になんの痛手も負わせる事は出来ず、結果、もっと身動きが取れなくなるように足で足を押さえつけられただけ。 胸元まで入り込んでいた相手の手が容赦なく敏感な突起部分をグリグリと押しつぶした瞬間、 「…ック…ぁあ…ッ」 上半身に走り抜けた耐えがたい感覚に、抑える事も出来ず嬌声を放ってしまった。 「この敏感な体で、よく抱く側でいられたな?…この際だ、お前は抱かれる側だって事を思い知らせてやる」 「や…めっ」 胸の突起を好き勝手に弄られ、口から零れる声はもう止めようがない。 こんな事ならもっと体を鍛えておくんだった、そうすればこんな好き勝手にはされなかった、と後悔しても後の祭り。 まさか、男に組み敷かれて逃れられなくなるような状況に自分が陥るなんて、思ってもみなかった。 「気持ちいいんだろ?嫌だっていいながら、こっちはもう完全に反応してるぜ?」 「い…ッ…、や…だ、…っく…ぅ」 下肢に伸ばされた手がジーンズの前をくつろげて直に潜り込み、既に緩く立ち上がっているそれを優しく撫でてきた瞬間、腰がビクッと跳ね上がる。 御堂は俺の反応が楽しいのか、獣のように獰猛な双眸に愉悦の光を浮かべて、今にも舌舐めずりしそうな顔をしている。 下肢にある手を避けようにも、自分の足が相手の足によって絡めとられてしまっている状況では、体を横に捩る事も膝を曲げる事も出来ない。 このまま本当にやられるのか?…嘘だろ…? 捲り上げられたシャツの胸元に顔を寄せた御堂がそこにある突起を舌で嬲るたびに、その快楽を堪えようと歯を食いしばって相手の肩を押し返す。 だが、次の瞬間に下半身に与えられた更なる甘い衝動に、手から力が抜ける。それどころか、まるで縋るように肩にしがみついてしまった。 「…も…、やめ…っ」 「ここまできて止められるわけないだろうが」 楽しそうに低く答える御堂の手が、一段と厭らしさを増して俺の性器を擦り上げる。 …このままだと…流される…っ…! 手慣れた相手が与えてくる強烈な快楽に、抗う事も出来ずに堕ちかかった。その時。 ピピピピピ。ピピピピピ。 突然、俺と御堂の間から無機質な電子音が鳴り響いた。 驚きに身動きを止めたのは、二人同時。 ピピピピピ。ピピピピピ。 「…あ…、俺の携帯…か」 ポケットに入れてあった携帯が、着信を告げている事に気が付いた。 俺の上にいる御堂の顔を見ると、御堂も見つめ返してくる。 そのまま暫し見つめ合うも、数秒後、本気で魂が抜けそうなくらいの深い溜息を吐いた御堂は、俺の体に伸ばしていた手をスルリと引き抜き、妙に疲れたようなゆっくりとした動作で体を起こした。それと同時に着信音が消える。

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