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第17話
◇・・◇・・◇・・◇
俺の事を好きって…、アイツはバイの俺とは違ってノーマルだったはず。男は範疇外だって言っていたのに、なんで突然…。
昨日からずっと繰り返している堂々巡りの疑問。
見上げた空は蒼く、白い雲とのコントラストが目に痛いほどハッキリしている。
4時間目の授業をサボって屋上に来たものの、だからと言って気分は全く晴れない。それどころか、自分以外は誰もいない静かな屋上のせいで、益々考え込んでしまうという悪循環に陥る事態となっている。
魂まで抜けだしそうな深い溜息を吐くと同時に、体を後ろに倒して仰向けに寝転がった。
『雅は抱く側なのになんで襲われそうになってんだよっ!!』
叫ぶように言った静輝の言葉が耳に蘇る。
そんなの、俺だって聞きたい。まさか自分が貞操の危機を感じる事になるなんて、思ってもみなかった。
御堂といい渡辺といい…、奴らはたぶん俺を揶揄っているだけだ。本気じゃない。
そう思った瞬間、ほんの一瞬だけ胸がキリっと痛んだ。
妙な苦しさと切なさを伴った痛みは、過ぎ去ってしまえば気のせいだったようにも感じて、いったい何だったのかわからないまま瞼を閉じる。
「…またサボってんのかお前は」
「ん?」
顔にかかった影と低い声。視線を頭上に向けると、寝転がっている俺を見下ろすように御堂が立っていた。
ここまで近づかれていたのに全く足音に気付かず、さすがに驚いて上半身を跳ね起こす。
前にも思ったが、気配を消して近づくのはワザとなのか。
「…なんでアンタがここに…。」
「それはこっちのセリフだ」
呆れたように言った御堂は、俺の斜め前に腰を下ろし、フェンスに背を寄りかからせて寛ぐ体勢をとった。
そんな御堂の姿を見た瞬間に湧き起こった不思議な程の安堵感に、思わず狼狽える。
「…なんだ?」
「べつに…」
何も言わずに見ていた俺の視線に気づいた御堂が視線を寄越してきたが、なんでもない、と首を横に振ってまたフェンス向こうの空へ目をやった。
『御堂先輩だけじゃなくて、渡辺とも関係があったのかよ雅は!』
また静輝の声が蘇る。
…関係って…、俺と御堂さんとはなんの関係もないだろ…。
そう心で呟く声が、まるで自分に言い聞かせているようだと…。何を必死で自分に言い訳をしているのか、意味がわからない。
その時、今度は御堂がこっちを凝視している事に気が付いた。相変わらずの強い眼差しに息を飲む。
「…な…んですか」
「お前、なんか今日おかしくねぇか?」
「………」
鋭いのは目付きだけじゃなく、観察眼も、らしい。
…参ったな…。
気まずさを誤魔化すように右足を引き寄せて片膝を立て、そこに組んだ両腕を乗せた。
その間もずっと感じる視線。
暫くたって根負けしたのは、俺の方だった。
「…今まで親友だった奴から告白されたら、御堂さんはどうします?」
「どうするもこうするも、自分がそいつに惚れてたんじゃなけりゃ断るに決まってるだろ」
「…まぁ…、そうですよね」
至極まっとうな意見に、頷く事しかできない。
もちろん俺は静輝に対して友情以上のものは持っていない。だから既に答えは出ているのだが、恋愛ではないとはいえ、大切だと思っている相手を傷つけるかもしれないと考えただけで、断ることを憂鬱に感じてしまう。
これが特に親しい相手じゃなければ、何も考えずに即行で断っている。静輝だからこそ、こんなに悩んでしまうのだと思う。
…断るって…、いったいいつ何処でどう言えばいいんだ。断ったら、俺と静輝の関係はどうなってしまうのだろう。
あいつがどう思ってたのかはわからないが、俺にとって親友とも呼べるべき大切な相手。これからもずっと付き合っていきたいとさえ思っていたのに、拒絶してしまったら友情さえも壊れてしまうのだろうか…。
知恵熱でも出そうな程の難題に、溜息しか出てこない。
その時、斜め前にいた御堂がフェンスから背を離した様子が視界の端に映った。
チラリと見やった先に近づいてきたのは、御堂の手。それは避ける間もなく俺の顎先をグッと掴んできた。
「…っ…なんですか、いきなり」
「お前…、俺が最初に言った事忘れてないか?」
「え?」
突然言われた言葉と、真正面から突き刺さる強い眼差しに、背筋を冷たい物が走り抜けた。
さっきまでは普通だったはずなのに、何故か今、御堂の顔には怒りの表情が浮かんでいる。
顎先を掴んでいる腕を払いのける事も忘れて、逸らせない瞳を茫然と見つめた。
「お前を俺のものにすると最初に言ったはずだな?」
「そ…れは」
「冗談だとでも思ってたのか?ふざけるな。お前が誰に告白されようと構わねぇが、それを聞いて俺が何も感じないなんて思うなよ」
御堂の口から放たれた言葉が、深く心臓に突き刺さった。呼吸さえ儘ならないほど圧迫された感覚に、思わずシャツの胸元を握りしめる。
冷たい声と眼差しで告げた御堂は、俺に何かを言う隙を与えず、立ち上がって屋上を出て行ってしまった。
「………」
掴まれていた顎先に残る痺れと、耳に残る低い声。
混乱と苦しさに詰まる息を喘ぐように吐き出し、膝に額を押し付けてギュッと固く目を閉じた。
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