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第18話

◇・・◇・・◇・・◇ 「…き、…おい、斎ー!」 「…んぁ?…あ、あぁ悪い、…なんだ?」 移動教室の途中、一緒に行こうと声をかけてきたクラスの奴と廊下を歩いていたのだが、 とある一つの出来事によって、一瞬だけ意識がそっちに持っていかれた。 その出来事とは、同じく移動教室らしい御堂とそのクラスメイトらしき姿。 向こうも俺に気が付いて目が合ったはずなのに、次の瞬間、まるで何事もなかったように一緒に歩いていたクラスメイトに視線を戻し、俺の横を取り過ぎたにも関わらず、全く知らない赤の他人のように無視をされた。 これまでの御堂なら、「なんだ、お前も移動教室か」なんてそんな言葉をかけてきたというのに…。 背後で聞こえる御堂と誰かの話し声が、徐々に遠ざかっていく。 何故かズキズキと胸が痛む。息が詰まって苦しい。 そんな時に話しかけられ、ついつい反応が遅れてしまった。 「斎、調子悪い?なんか顔色悪いぞ」 「…いや、全然普通」 「そ?…ならいいけどさ」 そう言ってまた話の続きを再開した友人の言葉は、全く耳に入って来なかった。 そしてその日から。廊下ですれ違おうが昼休みに姿を見かけようが、御堂は一切俺と関わらなくなった。 存在を無視される事がこんなに辛いなんて、…俺がこんなに誰かを気にする事になるなんて思ってもみなかった。 いつの間にか、御堂の存在が自分の中でかなり大きくなっていたと、そう気付かされたんだ。 ◇・・◇・・◇・・◇ 「ただいま!」 「あぁ、お疲れ」 夜9時過ぎ。部活を終えた静輝が部屋に帰ってきた。 部活自体は7時過ぎに終わるらしいのだが、そのあと各自で自主練をしているというのだから尊敬する。 身体を鍛える事は嫌いじゃないが、力を合わせてのチームプレーとなると一気にやる気がなくなる俺とは、根本的な部分が違うのだろう。 自分の部屋に向かった静輝の姿がドアの向こうへ消えると、またリビングに静けさが戻り、そしてまるでここ最近の日課のように、頭の中で御堂の冷たい態度が蘇ってくる。 俺が静輝との事を話したら本気で怒った。普通なら、俺の言動はデリカシーの無いものだったとわかる。けれど、最近はあまりに居心地が良すぎて、甘えが出た。この人になら何を言っても大丈夫なんじゃないのかと。 心のどこかで、あの人の俺に対する気持ちを軽んじていた。…いや、軽んじていたわけじゃない、本気で受け止めようとしていなかったんだ。受け止めるのが怖くて、逃げていた。 このまま、今みたいに温い水に浸かったような緩やかな関係でいられるのではないかと…。 「…どうすればいいんだよ…」 「何が?」 「…ッ…静輝…、部屋に戻ったんじゃなかったのか」 突然真後ろからかけられた声に、情けなくも肩をビクっと揺らして振り向いた。 Tシャツにスウェットという室内着に着替えた静輝の姿から、部屋に行ったのは着替える為だけだったのだと今更ながらに気づく。 「なんか最近元気ないね、雅」 「そ…うか?」 テーブルを前にして斜め横に腰を下ろした静輝が、体を傾け、俺の顔を覗き込むようにして見つめてきた。 その真っ直ぐな視線を受け止められず、流れるようにスイっと目線を逸らす。 「…御堂先輩の事?」 「え?」 不意打ちに、逸らしていたはずの視線をまた静輝に戻した。そしてそれは失敗だったと自覚する。 「以前に戻ったみたいだ、って。やっぱり御堂先輩と雅はなんでもなかったんだ、って。皆が噂してるよ」 「………」 真正面から告げられた言葉に何も返せず、ただ強く奥歯を噛みしめた。なんでもない顔をしたくても、それができないくらい苦い気持ちになる。 「御堂先輩が遊び人だって噂、雅だって聞いた事くらいあるだろ?それなのに騙されて近づいたからこんな事になったんだよ。…俺は、こんな事で悩んでる雅なんて見たくない!」 徐々に荒くなる口調と共に、静輝が身を乗り出して俺の肩を掴んできた。それを咄嗟に振り払う。 まさか俺が静輝の手を振り払うなんて思わなかったのだろう、その顔が一瞬茫然としたように驚きの表情を浮かべた。 「…雅、」 「違う」 「え?」 「御堂さんの噂、それ間違ってんだよ。遊び人ってやつ」 「え、だって御堂先輩の部屋の前に、いつも可愛い子とかキレイな子がいるって…」 「…だから、御堂さんが部屋に入れるのを拒否ってるからドアの前にいるしかないんだろうが…」 「…あ…」

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