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第22話

…熱くて…熱過ぎて…頭の中まで焼き尽くされそうな瞳に、まるでうわ言のように口から言葉が零れ出る。 「…俺は、いつの間にかアンタの事を…。…御堂龍司の事を、………好きになってたみたいだ」 熱にうなされるかの如く想いを告げた瞬間、後頭部の髪をグイっと鷲掴みにされて無理やり仰向けさせられた。同時に、覆いかぶさってきた影に唇を塞がれる。 驚愕に目を見開く俺を尻目に、御堂の強引な舌が口腔内を傍若無人に犯しはじめた。 「…フ…っぅ…ク…ッ」 荒々しすぎる口付けは、何よりも苦しさを感じさせられる。勢いあまって歯がガチガチとぶつかる程の貪りつくような激しさに、体は逃げをうつ。 だが、それを許してくれるほど、御堂は優しくない。 飲みこめない唾液が口端から零れおち、呼吸さえままならないまるで暴力のような行為に、足元が崩れ落ちた。唇が離れ、俺が床に座り込むのと同時に、御堂も腰を落として片膝を着く。 荒く呼吸を繰り返す俺の口元を、御堂の親指が我が物顔で優しく撫でてきた。 「気づくのが遅ぇんだよ。俺はもう途中からお前が俺に惚れてるって気付いてた。それなのに当人だけは気付かずにフラフラして。あげくの果てには親友に告られたとかぬかしやがる。普通に頭にくるだろ」 「…御堂さん…」 フと、ここ最近の御堂の冷たい態度が脳裏に蘇り、あんなのは二度とごめんだと思った。こうやって御堂の瞳に自分が映し出されている事が、俺の存在をしっかりと受け入れてくれる事が、心の底から嬉しいと…改めて実感する。 2人の間に落ちる沈黙が心地良い。久し振りに感じる安堵感に、自然と目元が緩んだ。 その時。 「…行くぞ」 「は?」 立ち上がった御堂が、突然俺の腕を掴み、引きずり上げられるように上に引っ張られた。 訳も分からず立ち上がると、それと同時に歩きはじめる相手につられて足を踏み出す。 「ちょっと、行くってどこに…」 「うるせぇ。黙ってついて来い」 「………」 どこまでも傲慢な態度に、苛立つより先に諦めの念が湧く。認めたくはないが、御堂のこんな部分もきっと好きなんだろうと思う。 こっちの事など見向きもしない相手にグイグイと引っ張られ、教室を出て廊下を歩き、階段を下りて校舎の外に向かう。 薄暗くなっている小道を抜けて、辿り着いた先は寮棟。 「え?なに、帰るのかよ」 意味がわからずそのまま進む。 階段を上っていった先の廊下。この階は3年の部屋がある階だ。 …という事は…。 見覚えのある部屋番号のプレートがかかった扉を、いつかの時のようにバタン!と蹴り開けた御堂は、俺の体をその部屋に押し込めた。 前にも一度来た事のある部屋。御堂の部屋だ。 後から入ってきた御堂が扉を閉じた瞬間、心臓の鼓動が大きく跳ね上がった。 固まっている俺の背後から御堂の腕が優しくまわされ、抱きしめられる。 「お前が俺のモノになったって事を、確かめさせろ」 「…御堂…さん…」 壊れたように激しく鼓動を刻む心臓が、今にも破裂しそうだ。 「お前がイヤだって言っても、もう俺は引く気はねぇぞ」 それでも、御堂のその言葉に覚悟は決まった。 喉に絡み付く掠れた声で 「…アンタになら、抱く立場を譲ってもいい」 そう告げると、背後で僅かに息を飲む音が聞こえ、次の瞬間、御堂の両腕に抱え上げられるようにして奥の部屋に連れ込まれた。俗に言う“姫抱き”に文句を言う暇さえ無い。 覚悟は決まったとはいえ、躊躇する間もない早すぎる展開に、感情がついていかない。 ベッドに投げ出されるように落とされ、その柔らかい衝撃に「ウッ」と息を詰まらせている間に御堂がベッドに乗り上げて、その長い手足で囲うように覆い被さってきた。 上から見下ろす御堂の双眸には、雄の欲情が濃く映し出されている。口を開ければ牙さえ見えそうなくらいに獰猛な気配に目を逸らせないまま、我知らず息を飲んだ。 「これから先、お前が誰かに突っ込む事は許さねぇ。セフレとは全員手を切れ」 欲望に掠れた声。一度言葉を切った後、熱を帯びた双眸にギラついた光が走る。 「…当たり前だが、突っ込まれるってのは論外だ。もしそんな事になったら、相手の奴を殺すぞ」 口先だけじゃない事がわかる本気の声色に、全身が強張る。 もちろん、俺が誰かに突っ込まれるなんて事はありえない。御堂だからこそ許そうと思える行為。そんな事にはならないと言い切れるのに、御堂から放たれる怒りの波動に、捕食される側の恐れを抱く。 乾いた唇を舌で舐め、震えそうになる声を押し殺して口を開いた。 「…相手の奴を殺して…、…そして、俺はどうなるんだよ」 引き攣りそうになる口元をなんとか押し留めて聞いた瞬間、御堂の眦がゆっくりと笑みの形に切れ上がった。 「お前は鎖に繋いで一生飼い殺しだ。…俺から逃げられるなんて思うなよ?」 「………」 激しい程の独占欲と執着が恐ろしい。それなのに、身体の奥底から湧きあがるこの衝動はなんだ? 恐怖を凌駕する程の、心地良い眩暈のような酩酊感。 俺が御堂のモノだと言うのなら、御堂は俺のモノ。 心に満ちる歓喜にクラクラする。こんな感覚を初めて知った。 「話は終わりだ。…言いたい事があれば後で聞く」 そう言い放った御堂は、おもむろに俺の着ていた制服のシャツに手を伸ばし、そのボタンを外しだした。 そして、長く激しい夜が始まりを告げた…。

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