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友達と担任
担任である 青山 健治こと健ちゃんが気怠そうにドアを開け、欠伸をしながら入ってくる。髪は少し長めの天然パーマで、顔は整っていて背は高い。女子生徒からの人気は絶大。しかし、当の本人は全く気にしていないのか、知らないのか。天然なのか馬鹿なのか。口癖は「彼女欲しいわぁ」。男子生徒からしてみれば嫌味以外のなにものでもない。だが、誰にでも優しく平等に接してくれて、何でも相談に乗ってくれるいい先生。だからなんだかんだ言いつつ、みんなから愛されている。
「おー、お前ら席座れー。ん?おい、柊」
「あ、はい」
「お前なんか顔色悪くねぇか?大丈夫か?」
どんな些細なこともちゃんと言葉で聞き、気にかけてくれる。そんな青山のことが時雨も嫌いではなかった。
「あ、はい。ちょっと寝不足なだけなんで、大丈夫です」
「あんまり無理すんなよ。んじゃ、出席とるぞー」
イケメンに心配されたら誰だってドキドキする。時雨ですら心配され、微笑まれたらなんでか分からないが気恥ずかしくなる。
いつも通りに出席確認をして、一日の連絡を済ませると青山は教室を出て行った。すると翔が時雨の席にやってきた。
「なぁ、時雨、本当に大丈夫か?てか、お前、健ちゃんと仲良かったっけ?」
「本当に大丈夫だよ。あと、先生とは別に仲いいとかじゃないよ。あの先生はいつも誰に対してもあんな感じだろ?」
「ふーん。ま、そうだな」
その後もしばらく話していると一時間目の先生が入ってきて、翔はまた自分の席へと戻っていった。
授業中、時雨はあまり先生の話が入ってこなかった。翔の言っていたことが頭の中からはなれない。
誠はきっと気が付いている。時雨が一番知られたくないことを、知っている。でも一体どこで知ったのか。そしてどこまで知っているのか。そして、そのことをどう思っているのか。
そんなことを考えていたら、あっという間に学校が終わってしまった。
ホームルームが終わり、帰りの支度をしていると翔がやってきた。
「時雨、一緒に帰ろうぜ」
「あー、いいけどちょっと寄り道していい?」
「いいけど、お前が寄り道ってことは夕飯の買い出し?」
翔とは中学からの付き合いではあるが、ある程度時雨の家の事情は知っていて、美浦ともわりと仲がいい。
「そう。朝冷蔵庫の中見たらあんまり入ってなかったから。それと、あと借りたい本があるからちょっと図書館まで」
「オッケー。美浦さん、大変なの?」
「いや、最近は普通だよ。たまに夜までの時もあるけど。まぁ、料理とかは嫌いじゃないから、母さんが忙しい時くらいはやっておかないと」
廊下を歩いて下駄箱までいく。
「なぁ、今度お前の料理食わせてよ」
「え、やだ」
「なんで!?」
「お前に作るのはめんどい」
そういうとものすごく悲しそうな顔をして駄々をこね始めた。すると下駄箱付近にいた青山が時雨に声をかけてきた。
「おーお前ら気ぃ付けて帰れよ。あとお前はさっきから何柊に縋り付いてんの?」
「聞いてくれよ健ちゃん!」
そう言って訳を説明する翔。全て話し終えると青山はフッと笑う。
「くだらねぇ」
「俺も先生に同意します」
時雨も青山に同意すると、翔は余計に肩を落とした。
「ま、でもお前、料理できんのすげぇな。俺もちょっと食ってみてぇわ」
「なんだよ!健ちゃんも食いたいんじゃん!」
「あ?くだらねぇとは言ったが誰も食いたくねぇなんて言ってねぇぞ」
「屁理屈だ屁理屈!」
そう言って怒る翔を、まるで子猫と遊んでいるかのようにひらひらとかわす。
そして翔が「もう帰るぞ!」というと青山は翔の頭をポンポンと撫でた。そして時雨の頭も軽くなでる。
「ま、気が向いたら今度食わせてな。あと、お前にあったらこれやろうと思ってたんだ」
そう言われ、ん、と差し出されたものを受け取る。銀紙に包まれている小さなチョコレート二粒とミルク味の飴だ。
「これ・・・」
「お前寝不足って言ってただろ?今日はこれ食いながら帰って、とっとと寝ろよ。お前ただでさえ細っこいんだから。せめて今を維持して健康にすごしなさい」
いつもはあまり真面目じゃない青山もこういう風に、たまにだが教師らしい一面を見せることだってある。
そしてまた時雨の頭を軽くなでると「じゃあな」といって職員室の方へと歩いて行ってしまった。
「時雨、行こうぜ」
「・・・あぁ」
時雨は青山が嫌いではない。普段は人に触れられるのが苦手な時雨だが、翔や青山は嫌な気がしない。翔はきっと唯一の友人だからだろう。青山は、きっと父親に雰囲気が似ているからだと思った。
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