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歯磨きと怒り
美浦がご飯を食べている前でコーヒーを飲みながらテレビを見ていると誠がお風呂から出てきた。
「兄さんお風呂開いたよー。あれ、お母さんおかえりなさい」
「ただいま。今日のご飯、時雨を手伝ってくれたんだって?ありがとね」
「そうそう、兄さんと作ったの。美味しかった?」
「もちろん。すっごく美味しかったよ」
「よかった」
誠は嬉しそうに笑う。
時雨はマグカップの中に残ってたコーヒーをすべて飲むとコップを洗ってからお風呂に入った。
いつも通り三十分ほどでお風呂から上がり、髪を乾かしていると扉をノックする音が聞こえてきた。
「兄さんちょっと入ってもいい?」
「ん、いいよ」
歯を磨きに来た誠は時雨が髪を乾かしている間なぜかずっと後ろの壁にもたれかかって歯を磨いていた。
誠がうがいをしている間に髪を乾かし終えた時雨が出ていこうとしたその時だった。
「兄さん」
急に誠が時雨の腕をガシッと力強くつかんだ。
「痛っ・・・な、なに?」
驚いたのもあるが、恐怖から少し声が震える。誠は無言で時雨をみつめるだけで、何も言わない。
「誠、離せ」
「・・・なんで」
「は?」
「なんで、兄さんは翔君とだけ友達なの?」
「・・・は?」
突然訳の分からないことを言われ困惑した。
(翔?なんで翔?今日一緒にいたからか?そう言えばこいつ翔嫌いなんだっけ・・・。こいつ、何考えてんのか本当にわかんない)
なんで翔とだけ友達なのかに理由なんて特にない。ただ一緒にいて楽だから。本当にただそれだけなのだ。
時雨は誠の手を全力で振りほどく。
「何が言いたい。俺が誰と友達になろうがお前に関係ないだろ。翔と友達なのはただ一緒にいて気が楽だからだ。それ以外に何がある?あとお前さ、なんでそんな翔のこと気にしてんの?あいつに嘘言ったりあんまり失礼な態度とるなよ」
「・・・別に翔君に失礼な態度とったり、嘘ついた覚えはないけど」
「お前がとってないとしても、目が笑ってないのに笑顔で話しかけたり、余計な事言おうとしたりするな」
それだけ言って時雨は逃げるようにして自分の部屋に戻った。すぐに布団の中に潜り込む。今になって少しだけ腕が痛んだ。
(なんなんだよあいつ。意味わかんねぇ)
しばらくして落ち着くと、眠気がゆっくりと訪れる。
窓の外からはかすかに雨粒が窓に当たる音がした。
(明日は・・・雨だ)
重い瞼を閉じて時雨は眠りについた。
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