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雨の日の彼
朝と呼ぶにはまだ薄暗く、日も昇っていない午前四時三十分。アラームをかけた時間よりだいぶ早くに目が覚めてしまった。
布団から起き上がり、カーテンを開けると雨がザーザーと音をたてて降っている。時雨の顔は自然と笑顔になり、そのまま静かに、そして足早にキッチンへと向かった。
棚の中から三つお弁当箱を取り出す。深緑と黄緑、そして木で作られたものだ。そんなに大きくはないお弁当箱に昨夜作り置きしておいたおかずを数種類詰め込み、冷凍しておいたハンバーグをフライパンで焼き、もう一つのコンロでは卵焼きを作る。そしてそれらを詰め込むと、バランスの良い色採りどりのお弁当が出来上がった。手際よく作ったために、一時間もかからずに作り終わった。
お弁当箱を丁寧に包み、手提げバッグの中に丁寧に入れる。時計をみると針は五時四十分を指しており、時雨は静かに、けれど急いで玄関へと向かう。
靴を履いていると、美浦が寝室から顔を出す。
「おはよう時雨。もう行くの?」
「おはよう母さん。うん。弁当は自分で作ったから大丈夫。あ、今日も夜いない?」
「今日はいるよ。だからゆっくり帰ってきても大丈夫よ」
「・・・ありがとう。じゃあ、行ってきます」
「うん。気を付けて」
玄関先で美浦に手を振り、時雨は外にでる。
美浦はどこまで知っているのか分からないが、雨の日は時雨が自分でお弁当を作り、帰りがいつもより遅くなることを知っているのは確かだ。でも特に何も言われない。それが時雨にはとてもありがたかった。
時雨はマンションの五階に住んでいて、一階まで降り、外にでるとお気に入りの傘を開き、雨のなかを軽い足取りで公園へと急ぐ。
マンション近くの少し大きな公園が見えてくると辺りをキョロキョロと見回す。すると、公園の中に傘をさす人影を見つけた。時雨はその人の元へ走って近づく。
走ったせいで乱れた呼吸を整え、一度深呼吸する。そして、声をかける。
「な、成美さん!」
「・・・時雨くん。おはよう。今日も早いね」
そう言うと、成美と呼ばれた男はニコッと微笑んだ。
成美は遠目から見ても分かり易いくらいに白かった。その姿は、まるで雪の妖精のよう。背は高いものの痩せ細っていて、骨に皮をつけたような体つきをしている。髪の毛は真っ白で、初めて出会ったとき、時雨はあまりの美しさに息をのむほどだった。
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