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次の約束

 帰り道でも、来た時と変わらないような話をしていたが、二人は飽きなかった。成美から教わるものは、どんな偉人の言葉より、教科書や先生の言葉より、時雨のなかに入ってくる。全て聞き逃すまい、と必死になって聞き入る。気になったことは何でも聞く。そうすると、成美は何でも教えてくれる。言葉通り、時雨の聞きたいことは何でも。 成美はとても博識だ。まるで辞書のような人間なのだ。  時間というものは、早く進んでほしい時ほど遅く、また、遅く進んでほしい時ほど早くなる。  成美と過ごす一時間は、あっという間に過ぎてしまい、気が付けば時雨の住むマンションの前まで来ていた。  帰り際に、成美が時雨を送っていくと言って、いつもの公園で解散せずに家まで送ってくれたのだ。  時雨の住むマンションと成美の家は少し遠いのだが、成美は「いいから、送ってくよ」といって、本当に送ってくれたのだ。 「あの、今日はいつもと違うところに行けて、凄く楽しかったです。ありがとうございました」 「いえいえ。僕も君と行けて楽しかったよ。遠いのに付き合ってくれてありがとう。また行こうね」 「もちろん。いつでも誘ってください」 「うん。あ、そうだ。忘れるところだった」  そういうと、成美はずっと手に持っていた本を時雨に渡す。  時雨はそれを受け取った。 「それ、今日貸そうと思ってた本。よかったら読んでみて。結構面白いと思うよ」 「あ、ありがとございます!」 「返すのはいつでもいいからね」 「はい」  本を渡すとすぐに成美は帰ってしまった。スマホの画面を見ると、時間はすでに九時を越していた。時雨は、成美が見えなくなるまで後ろ姿を見送ってから、家の中に入った。  玄関にはすでに美穂の靴と誠の靴があった。 「ただいまぁ」  靴を脱いでいると、リビングから美浦がでてきた。 「お帰り時雨。外、寒くなかった?」 「ただいま、母さん。寒いっていうより、ジメジメしてた」 「そっか。今から誠と二人でコインランドリー言ってきてもらってもいいかな?洗濯物全然乾いてなくて」 「ご飯食べてからでいいならいいよ」 「全然いいよ。ごめんね、ほんとは私が行ければいいんだけど・・・」 「また仕事持ち帰ってきたの?体壊さないようにしてね」  美浦は「ありがとう」と言って、リビングへと消えた。  美浦は何とか稼ごうと必死になって働いている。ここ最近は特に残業や持ち帰ってくる仕事が増えて、ろくに寝ていないのか、目の下の隈が隠せないほどに目立っている。自分たちの為に頑張っている母はすごいと時雨は思うが、体を壊すほど無理をしてほしくはなかった。  美浦の為にできることはなるべくやるようにはしている。家事も、雨の日以外は美浦の残業がなくてもするし、洗濯物だって畳んだりするのは時雨だ。これで少しでも美浦の負担が減ってくれれば。時雨はそう思っていた。

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