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洗濯物と獣
リビングに行くと、テーブルの上には時雨の分の夕飯が温められていた。
時雨はそれをすべて食べた後に、食器を片すと、乾いていない洗濯物をまとめる。そこまで量がなかったために、「一人で行けるよ」と美浦に言った。すこし心配そうな表情をしていたが、「じゃあお願いね」と時雨にお金を渡す。
玄関で靴を履ていると、誠が自分の部屋から出てきて、靴を履き始めた。
「俺一人で行くからいいよ」
「何言ってんの。雨降ってるし、もう夜遅いんだよ?兄さん一人じゃ行かせられないよ」
その誠の態度に、なぜか時雨は苛立ちを覚える。
「いいって言ってんだろ。お前はついてくるな」
「・・・なんで?人手が多くて困ることはないでしょ?それとも何かあるの?着いてこられて困る理由が」
「・・・お前、なんでそう、昨日から俺に突っかかってくるんだよ。俺がお前に何かしたか?不満があるならはっきり口に出して言えよ」
すると、突然、誠は玄関の扉を力いっぱい叩いた。鈍い音がガンッとなって、それに驚いた時雨の肩がビクリと動く。
「・・・最近の兄さんは、変だよ」
「・・・何、が」
「全部が」
誠の怒ったような瞳には、まるで獲物を狩るような、獣の色を帯びていた。そして、ゆっくりと近づいてくる誠に、体を動かせないでいると、美浦が急にリビングから出てくる。
「ちょっと、今、すごい音したけど大丈夫?何してるの?」
「・・・ちょっとバランス崩しちゃって!な、兄さん?だからなんでもないよ、母さん。」
余計なことは何も言うな。
そう目で訴えられている。時雨はそれに従うように、首を縦に振る。美浦は「そう?ならいいんだけど」といってリビングへと消えた。
誠は深くため息をついて、籠を持ち上げる。
「・・・行こう、兄さん」
「あ・・・うん」
この言い方ではどちらが年上なのか分からない。
二人は家から出て、すぐ近くのコインランドリーに入ると、中にはすでに人が数人いた。時雨と誠は無言で、開いている乾燥機を見つけると、洗濯物を入れる。美浦から預かったお金を入れ、回している間、二人は座って終わるのを待つ。その間も終始無言だった。
そして気が付けば、乾燥待ちは時雨と誠の二人だけになっていた。
いつもはおしゃべりな誠は、今日は静かに座っているだけ。先ほどのことがあってか、二人とも気まずいままだ。
時雨は今日成美から借りた本を見て、心を落ち着かせていた。それから、明日の天気が気になり、スマホを使って調べる。しかし、明日は雨にはならなさそうな予報しか載っていなかった。そのことに肩を落とし、また本を読む。チラリと横目に誠を見ると、どこを見ているのか分からない、心ここにあらずといった目でぼんやりとしていた。それが時雨にはなぜか気味悪く思えて仕方がない。
乾燥機が止まると、畳んでから籠の中に戻す。その間も、必要最低限以外は話さなかった。それは帰るときも、帰ってからもずっとだ。そして、その日は「お休み」を言うことなく、二人とも布団に入ったのだった。
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