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友達になりたい

(・・・やっぱり雪の妖精みたい)  本気で雪の妖精を信じているわけではないが、あまりにも似すぎていて少し怖かった。  ベンチに座ると、心なしか落ち着く。泣くのなんていつ以来だろう、と考えてみる。が、思い出せなかった。つまり、泣いたのは本当に久しぶりのことだったのだろう。泣き方を忘れていたのだ。泣く、という感覚も、忘れていた。  どれくらいそうしていたのか分からなかった。だが、涙は止まり、心も落ち着いた。 「大丈夫?少しは落ち着いた?」 「・・・はい」 「君はこの近くに住んでるの?」 「・・・はい」 「そうなんだ。僕、千我屋成美っていうの。僕もここら辺に住んでるんだ。意外とご近所さんかもね」  クスクス、と笑う成美。それにつられ、時雨も「そうかもしれませんね」と笑った。 「俺は、柊時雨って言います。あの、さっき気になったんですけど、寒くないんですか?」  成美と出会った季節は秋と冬の丁度中間くらいで、何枚か着ないと肌寒かったのだが、成美は薄着で、しかも傘もさしておらず雨に濡れていたために、見ている方が寒く感じる。  その質問に、成美は「あぁ」と言って苦笑する。 「僕いろいろ訳があって雨の日にしか基本外に出られないんだ。だから、寒くてもずっと雨に濡れていたいんだ。さすがにちょっと寒いんだけどね。よく変だって言われるから、雨の日の朝と夜しか出ないんだけどね」 「・・・そうだったんですね」 「僕、変でしょ?」  時雨は勢いよく首を横に振る。 「変じゃないです。全然、変じゃない。それに、雨に濡れてる成美さんは、すごく、綺麗でした」  予想外の返答だったのか、成美は驚いた顔をして、口を開けたまましばらくの間黙ってしまった。時雨は、自分の口走った言葉を頭の中で繰り返し、急にはずかしくなって顔が熱くなっていくのを感じる。  それを見た成美は思わず吹き出す。 「君、面白い子だね!僕、君と友達になりたいなぁ」 「・・・え?」  恥ずかしさのあまり下げていた顔をあげる。  この時、人生で初めて面と向かって「友達になりたい」と言われたのだ。  翔とは、いつの間にか傍にいて、近くにいても嫌じゃない奴だ、と思ったから自然と「友達」になっていた。だから直接的に「友達になりたい」とか「友達になろう」などそんなことは言われたことがなかったのだ。だから、成美の言葉に驚いたのと同時に、嬉しい、そう思った。 「俺と、友達?」 「そう。君と友達になりたい。恥ずかしい話、僕学校にあまり通えなかったから友達って呼べる人間は今のところこの地球上に一人だけなんだ。見た感じ、君は学生で、きっと僕とは歳もそれなりに離れてると思うんだけど、でも君と友達になりたいんだ。こんな面白い子、初めてだからね」  成美の目が、時雨を見つめる。 成美の瞳は、燃えているようだった。あまりにも赤くて、熱くなっていく顔がまるで燃えているように感じる。熱くて、思考が止まる。 「あ、えっと・・・」  言葉がうまく出てこない。変に緊張してしまう。 「ダメかな?」 「いえ!お、俺も、その・・・友達?に、なりたい、です」  口をついて出た言葉は、嘘偽りのない本心だ。  

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