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名前とまたね

「じゃあ行こうか」  そう言って立ち上がった成美は傘を差さないまま東屋の外へと出る。時雨は驚いて成美を呼び止めた。 「ちょ、千我屋さん!?傘、差さないんですか?」 「うん。だって、僕傘持ってきてないから」  何か変?というような顔で時雨をみる。時雨はその顔を見て、確かに最初見た時も傘を差していなかったし、傘を差さないと言っていたことを思い出す。 「あの、俺の傘入ってください」 「なんで?別に俺はいいよ。もともと濡れてるし」 「いえ、風邪ひくんで、入ってください」  そこは何が何でも引けない時雨は、送ってもらうのと交換条件に傘に入ってもらう。 「僕なら大丈夫なのに」 「俺が気にします。風邪ひいたら大変だし」 「そう?じゃあお言葉に甘えて。お邪魔します」  傘に半分ずつ入る。時雨の持っていた傘は普通の傘より少し大きめだった為に、細い二人が入るには十分な大きさだ。  帰り道でも、いろいろな話をした。 「千我屋さんは今何歳なんですか?」 「今年で二十五歳になります。時雨君は?」 「俺は十四です」 「え、じゃあまだ中学生なんだ。若いなぁ。羨ましいよ」  成美は質問すると基本何でも答えてくれた。生まれつき体が弱く、日光アレルギーを持っているということ。そしてアルビノであること。そのせいもあって外に出ることは難しく、部屋にずっと閉じこもっていたこと。学校に行くことができず、近所の幼馴染と仕事で関わっている人としか交流がないこと。雨の日の朝と夜は基本あの公園にいること。本当にたくさんのことを教えてくれた。  気が付けば、時雨の住むマンションの入り口まで来ていた。 「ここが俺のすんでいるマンションです」 「じゃあここまでで大丈夫だね」 「わざわざありがとうございました」 「いえいえ。僕の方こそありがとう。久しぶりに楽しかったよ」 「俺もです。あの、千我屋さん」 「ん?」 「夜も、話に行っていいですか?」  成美は「もちろん」と言って微笑む。時雨も同じように微笑んだ。再び成美にお礼を述べ、見送る。 「あ、そうだ。時雨君」  少し歩いたところで成美は何かを思い出したように振り返る。 「はい?」 「千我屋さん、じゃなくて成美って呼んでほしいな!」 「え?でも、千我屋さんは年上ですし・・・」 「友達、なんだから歳なんて関係ないでしょ?」  そういうものなのか?と思ったが、呼んでほしそうな顔を向けられる。  年上の人を名前で呼んだことがなかった時雨は、少し気恥ずかしい感じがする。 「・・・な、成美さん」  少し声が裏返ってしまう。それでも成美は嬉しそうな顔をした。 「うん。ありがとう、時雨君。じゃあ、またね」

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