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第11話 個室で……

 昼飯を挟んで午後三時ごろまで続いた練習試合と交流練習は思いの外盛り上がり、あっという間に時間が過ぎた。  東学(しのがく)と英誠大はこれまでに何度も練習試合をしているらしく、先輩同士もめちゃくちゃ仲が良くて、すげぇいい雰囲気で楽しかった。    そして夕方から、打ち上げが催された。  あいにく、佐波は撮影が入っていると言って打ち上げには来なかった。でも、体育館を出て行く前に、コッソリと俺のシャツを引っ張って、「飲みすぎんなよ、お前酒弱いねんから」と釘を刺していった。  朝から喧嘩ムードだったけど、ああして俺のこと心配してくれるあたり、なんかやっぱ恋人っぽくね? と、佐波の気遣いが嬉しくて、顔がニヤニヤと緩んでしまった。するとヤクザづらの和久井部長に「おいどうしたんだ、顔ゆっるゆるだぞお前。シャキッとしろシャキッと!!」と尻を叩かれた。  そんなこんなで楽しい打ち上げが終わった後、先輩たちは小洒落たお高いダーツバーへ行くと言って夜の街へ消えていった。(なんでも、全部和久井先輩の奢りらしい)  俺も誘われたけど、今日はミハエルとの再会を祝して、のんびり二人飲みをする約束がある。というわけで、俺はサークルの仲間たちに手を振って、駅前で別れたのだった。  そして、俺とミハエルはごくごく普通の居酒屋チェーン店に入り、運良く空いていた個室に入った。思い出話を肴に気持ちよく酒が進んでしまい、いつしか俺は、べろんべろんに酔って気持ちよくなってしまっていた……。   「そんでさぁ〜〜〜もうさ〜〜まじでとにかく可愛いんだけどさぁ〜〜〜でもこう、なんつーの? トゲ? 綺麗なバラにはトゲがあるってか? そういうかんじっていうか〜〜〜」 「ふう〜ん、美人だけど刺々しいんだ、大和の彼女」 「そうそうそうそう、美人だけどガード固くて、なんつーかなっかなかいいムードとかなれねーんだけどさぁ、でも……ぐへっ、うへへへへっ」 「ふうん、なるほど。でもいいムードになれたときは、すごくイイってことだね?」 「そうそうそうそう! お前よく分かってんじゃねーか!! さすが天下の英誠行ってるだけあんな!!」 「まぁね、大和って昔から分かりやすいからさ。そういうとこ、今でも可愛いよ」 「だろだろ〜〜〜?」  気づけば俺は、佐波のことを『彼女』とカムフラージュして、おおっぴらにノロケ話を展開していた。  ミハエルは嫌な顔一つせず、酒や料理が切れないようにさりげなくオーダーを入れてくれながら、ゆったりとしたペースで話を聞いてくれる。こんなに気持ちよく酔えるのは初めてかもしれない。 「ミハエル、話聞くのうまいわ〜……。なんかするする色々喋っちゃうなぁ」 「そう? だって、大和とは久々に会うだろ? どんな生活してるのかなぁって、興味あるから」 「べっつに俺なんて普通だよ、ふつう〜。学費も偏差値もたっけー大学に無理して通ってっからさ〜、バイトざんまいでもう大変でさ〜」 「え? そうなんだ。なんで?」 「えー……と、彼女と、一緒の大学行きたくて……」 「そうなんだ〜〜! すっごいね大和! 愛を感じる!」 「だろだろ〜〜? どんだけ俺、必死なんだっていう〜」 「必死なの? 無理してない? 単位とかちゃんと取れてるの?」 「ああ、まぁ……前期は大丈夫だった。佐波のやつ、頭もいいからさぁ……勉強教えてくれんの、めっちゃ厳しいけど」 「佐波……」  だんだん眠くなってきた俺は、狭い個室の壁にもたれて目を閉じた。今日一日、バスケで走り回った心地よい疲れが、とろとろと俺の瞼を重くしている。 「無理してねーかって言われると……してないともいえねーけどさ……。でも、一緒にいたいじゃん。好きなんだもん。でもさ……もうちょっと優しくしてくれてもいいんじゃね? って思うときあるんだよなぁ……」 「その子、優しくないの?」 「いや……優しくねーことはないけど……うーん、素直じゃないっつーか照れ屋っていうか……照れ方がバイオレンスっていうか……まぁ、けっこう喧嘩になっちゃうこと多くってさ……そういうの、地味にしんどいっていうか、こっちもほら、全然大人じゃねーし、でも好きだし……」 「……大和、だからこんなに酔っちゃうくらい、疲れてるんだね」  すっと、ミハエルが掘りごたつから立ち上がった。トイレにでも行くのかと思ったら、何故かミハエルは狭い個室の中を移動して、俺の背後へとやってきた。  そして、何故か、俺の背後に腰を下ろして、俺の身体を背後から抱きしめるような格好で、また掘りごたつに足を伸ばしてる……狭い。 「ちょ、ミハエル……何やってんだよ……(せめ)ぇー」 「こんな冷たい壁にもたれてたら風邪ひいちゃうよ。ほら、僕身体だけは大きいからさ、ソファだとでも思って」 「え……あ……うん。ソファね……」  背中から包み込まれていると、ミハエルの体温がじんわりとあったかい。着替えの時にチラ見したけど、あんなに細っこくて華奢だったミハエルの身体は、かなりの分厚い筋肉に覆われていて、それこそ目ん玉飛び出そうになったもんだぜ……。 「お前……ごつい割に筋肉やわらけーな……座りごごちいいわ……」 「ふふっ、でしょ? 胸筋も結構盛り上がってるからさ、先輩たちにたまに揉まれる」 「ええ〜〜おっぱいあんのかよお前!」 「大和も揉んでみる?」 「いや……今俺の後頭部包み込んでんのがおっぱいだろ? ……はぁ……確かにいいクッション具合……」 「可愛いね、大和。中学生の頃はすっごく大きく見えたけど、今はこんなに可愛いんだもん。……ハァ……」  つむじのあたりに、ミハエルの鼻先が当たっている。すんすんと匂いを嗅がれ、俺はくすぐったさに身をよじった。 「んん……くすぐってーよ」 「ねぇ、大和。無理しなきゃ付き合えないような相手なんて、どうせこの先長続きしないと思わない?」 「……え?」 「しかもさ、その子は大和の頑張りとか、無理してることとか、いまいち理解できてないみたいじゃないか。大和の努力を分かってくれてるなら、大和を邪険に扱うようなことなんて出来るわけないよ。……そう思わない?」 「……そ、そうなのかな……」  酔っ払い、ふわふわした羽のような眠気に揺蕩っている俺の耳に、ミハエルの声が低く忍び込んでくる。包み込まれるあたたかさや、ゆったりとしたミハエルのペースは安心する。そのまま微睡んでしまいたいのに、ミハエルのセリフだけが、俺の胸に棘のように突き刺さった。  ――無理して付き合っても……長続きしない……?  前々から考えてた。  佐波はゆくゆく、京都に戻ってあの大企業を継ぐんだろうなって。そこに、俺みたいな一庶民がくっついていって、どうなるっていうんだろう。佐波は、自分がゲイだってことを、いつまでも家族に隠すつもりなんだろうか。いずれは女と結婚して、普通に子どもとか作って、セレブの世界で華々しく生きていくのかな……。  でも俺はきっと、なれたとしてもただのリーマン。こき使われる側の人間だ。だって、親もそうだし、家柄とかそんなご立派なものなんて持ってない。どこかの企業の一つの部品になって、毎日働くだけの人生を送るに違いない。  ――学生の間は良くても……その先は……? 「でも……俺……好きだし……」 「大和は好きでも、相手はどうなの? 話を聞く限り、本当に大和のことを愛してくれているとは思えないよ? わがままで、なんでも自分の思い通りにならないと不機嫌になるなんて、ただのお子様じゃないか。きっと小さい頃から、ちやほや育てられてきたんだろうね?」 「ち、ちげぇよ! 佐波はそんなやつじゃなくて……ただ、素直になれないだけっていうか……!!」 「でも、同い年の大人なんでしょ? 大事な人は大切にしないといけないってことくらい、とっくに分かってるはずだよ? でも、こうやって大和を振り回すんだ。それってさ、本当は大和のこと、大切に思ってないってことじゃない?」 「……」  なんだか、すうっと指先が冷えていく。  耳元で淡々と語るミハエルの声が、俺の脳を痺れさせていく……。 「でもっ……でも、そんなことねぇよ。あいつ……俺のこと好きって、言ったもん……」 「言葉なんて、いくらでも飾れる不確かなものだよ。態度と行動で、ちゃんと示さないと……」 「っ、ん……」  する……とミハエルの手がシャツの中に入ってきた。俺のよりもひと回り大きな掌で下腹を撫でられて、俺は仰天するあまり飛び上がりそうになった。 「み、ミハエル! 何やってんだよっ……!!」 「僕だったら、大和を苦しめたり、無理させたりしない。大和がしたいと思ってることも、めいいっぱい、してあげるよ?」 「ちょっ……な、なっ……アッ……」  あっという間にジーパンの前を開かれて、ミハエルの手がパンツの中にまで入ってくる。ふにゃっと萎えたちんぽを包み込まれ、にぎにぎと柔らかく揉みしだかれた。  驚きと恐怖でそこから逃れようとしているのに、酔いのせいで身体は重いし、しかもでかいミハエルに抱きこまれているから動けない。……あまりのことに、俺は真っ青になってしまった。 「み、ミハエル……冗談やめろって……!!」 「まぁ、してあげるっていっても……僕は挿れるほうがいいな。だって大和、こんなにかわいいんだもん」 「は!? ちょ……お前っ、あ、っやだ、やめろって……っ!!」 「ふふっ、やだって、かわいい。その子とは、まだしてないんだろ? かわいそうに、我慢ばっかりさせられて」 「やめっ……んっ、っぁ……」  かぷ、と耳を噛まれて、腰が震えた。俺のちんぽを揉みながら、もう片方の手が乳首の方へと登ってくきた。  ミハエルは指先で乳首の先端をコリっとつまみ、くにくにと弄ぶ。そして耳元では、熱い吐息を漏らしながら、甘い声で囁いた。 「大和、酔っ払って立てないよね? ……すぐ近くにホテルあるから、そこでちょっと、休んで行こうね」

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