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第18話 スパイス

  「あれ? なんや、結構ちゃんとできてるやん」  東雲学院大では、各部室に一台ずつパソコンが設置されている。そこに保存しておいた合宿関連のデータを開いて見せると、佐波は俺の背後からモニターを覗き込み、気の抜けたような声を出した。 「毎年やってるからさ、英誠大(むこう)に送る文書の文面はまんま使えるんだよ。日付と合宿所の場所入れ替えたりするだけでさ。あとは部屋割りとかスケジュールとか……」  カチカチとマウスを操作しながら関連資料を開いていくと、佐波は「ふーんふん」と小声で呟きながら、内容に目を通し始めた。 「そんでこれ、明日のミーティングでみんなに配ろうと思ってたとこなんだ。……どっちみち、そこでお前にもバレてたかな」 「……ふうん、そうやったんか。なんや、つまらん。もっとイビっていじめたろと思ってたのに」 「お前はまたそういうこと……」  佐波はそんなことを言いつつも、上半身を屈めてモニターを見つめていた視線を俺の方に向け、口角を上げてにっと笑った。不意に視線が間近で絡み、俺は思わずどきりとする。 「こんなことなら、もっとうちでイチャイチャしといたらよかったわ」 「えっ……? え?」  いつになく思わせぶりな口調でそんなことを言うと、佐波はゆっくりと俺に顔を近づけて、ふわりと軽いキスをした。そして、長い睫毛をゆっくりと持ち上げると、俺の反応を窺うように、無言のままこっちを見つめている。 「さ……佐波からそんなことするなんて、めちゃくちゃ珍しいじゃん」 「そうかぁ?」 「そうだろ。……こっち来いよ」  俺は時計をチラ見して、当分この部屋に人が来ることはないであろうということを確認しつつ、佐波の腕を引き寄せた。いつになく素直に俺に身を寄せてきた佐波のうなじに手を添えて、そのままもう一度キスをしようと顔を近づけた瞬間、机の上に置いていたスマホが激しく振動し、ガタガタガタ!! とけたたましい騒音を放つ。俺たちは揃って仰天し、思わず顔を見合わせた。 「びびった〜……誰だよこんな時にスマホ鳴らすやつ」 「電話みたいやん。…………あ」 「え?」  佐波の視線を追うようにしてスマホの画面を見下ろしてみると、モニターにはくっきり『ミハエル』という文字が浮かんでいた。俺はぎょっとして、大慌てで通話をキャンセルしようとしたけど、その直前で佐波がスマホを取り上げて、さらっと通話ボタンをタップする。俺は目を剥いた。 「えっ!? おい!? ……あ、も、もしもし?」 『あ、大和? おっはよ〜〜!! ごめんねこんな時間に、講義中じゃなかった?』 「あ、おう……。えーと、今は空きで、ちょうどそっちに送るメールを作ろうと思ってて……」 『そっかそっかぁ、すっごい偶然! 僕も今、おんなじことしようとしてたんだよぉ? ちょっと確認したいことがあって〜』 「そ、そう……」  スピーカーをオンにしなくとも、きゃっきゃと楽しそうに電話口で喋っているミハエルの声が、スマホからガンガンに漏れてくる。ちら、と佐波の方を窺ってみると、佐波は腕組みをしつつ机に寄りかかり、じーっと隙のない目つきで俺を見下ろしていた。……つうか、睨むなら電話取るなよ。 『それでねそれでね〜、こっちに肉屋の息子がいて、バーベキュー用の肉を安く卸せるから、一泊目の夕飯はぜひ焼肉パーティーにしたらいいんじゃないかって思ってるんだけど、どうかなぁ?』 「お、おお、いいんじゃね? ぶっ通しで練習試合組んでるから腹減るだろうし……」 『ま〜東学(しのがく)さんはセレブな学生が多いみたいだから焼肉なんて食べ飽きてるかもしれないけど、バーベキューってテンションあがるし……』  と、スマホからハートマークが飛び出してきそうなほど楽しげに話しを進めていくミハエルだ。それに対して、佐波の無表情がめちゃくちゃ怖い……。  チラチラ佐波を気にしつつも、俺はミハエルの話に合わせてこっちの人数や未成年者の人数などを伝えていた。すると突然、PC画面を見つめていた俺の視界を遮って、佐波が俺の膝の上に乗ってきたではないか。これまた珍しすぎる行動だ。俺が一人でびっくりしていると、あろうことか、佐波は俺の首筋にちゅ、ちゅっと唇を寄せてきた。しかも、がっつりキスマークがつきそうに、きつく俺の肌を吸っている。 「ちょ……何」 『え? なになに〜?』 「い、いや、なんでもな……っ……。て、ていうか、用事はそれだけ?」 『あ、あとねー。部屋割りのことなんだけど〜』 「お、おう……」  ミハエルの話は続くが、佐波の謎行動も続いている。しかも、さっきより大胆になってきている。する……と俺のシャツの中に手を差し込み、首筋にキスマークを刻み込みつつ、思わせぶりな手つきで俺の背中に手を這わせるのだ。佐波にとってはライバル的な存在のミハエルと通話中という状況、そしてエロい指使い、敏感な首元を執拗に責められる快感で、だんだん俺は妙な気分になってきた。  しかも、佐波は半ば勃ち上がった俺の股間の上で、淫らに腰を蠢かせ始めている。気持ちいいところを刺激され、無意識に吐息が漏れる。それを見て、佐波はにぃ、と赤く濡れた唇を吊り上げる。 「……っ……こら、おい」 『えっ? どうしたの〜? それで、英誠と東学のミックスで部屋割り組んだら、またそれぞれ仲良くなれるんじゃないかなぁと思ってさぁ』 「うっ……うん、いいんじゃね?」 『本当!? よかった〜〜! 大和はあのビッチくんと同室になりたかったかもしれないけど、まぁ二日くらいのことだかが我慢できるよね?』 「お、おう……っ……ん」 『どうしたのさっきから? なんか呼吸が荒くない?』 「そ! そんなことねーよ!! じゃ、じゃあそっちにその辺のこと任すから!! あ、俺、そろそろ行かなきゃだから!!」 『あ、そっか〜。うん、分かった。じゃあまた電話するね♡』 「おう……じゃあな」  ようやく通話を終了し、俺はジロリと佐波を睨みつけた。すると佐波は挑発的な目つきで俺をじっと見つめたまま、「なんや、全然声出さへんかったなぁ」と笑みの浮かんだ唇でそんなことを言う。 「ばっかやろう、何してんだよっ。イチャイチャしたいなら、電話出なきゃよかっただろーが」 「そやけどさ」 「ったく……あー焦った」 「大和がもっと可愛い声出してくれたら、あのゲルマンぶりっ子野郎にもいい刺激になったかもしれへんのになぁ」 「いやいや……そういうのやめろって。ただでさえお前のこと敵対視してんだから……」  そう言いかけたところで、今度は唇を塞がれる。ゆっくりとした動きだが、唇を貪るように深いキスに、俺に対する佐波の執着のようなものをヒリヒリと感じた。なおも腰を揺らめかせつつ、俺の舌を誘い出そうとするかのようなあざとい動きでねっとりとキスを繰り返す佐波の腰を、俺はぐっと引き寄せる。 「煽りやがって。どーすんだよコレ」 「っ……ン……」  ぐっ、ぐっと下から突き上げるような動きで腰を突き出すと、佐波の白い頬が紅潮し、表情から余裕が薄れる。普段は勝気な佐波が、セックスの時にだけ見せるこのエロい表情を見るだけで、俺はさらにムラムラとテンションが上がってしまった。  今度は俺が佐波を抱き寄せ、やや強引に唇を奪う。舌を押し込み佐波の口内を蹂躙しながら、シャツの中に手を突っ込んで敏感なところをこねくり回してやれば、俺の指の動きに合わせて身体を震わせながら、「ぁ、あっ……ン、ん」と可愛い声を漏らし始めた。 「……どうすんだよ、佐波」 「あっ……んっ、ハァ……っ」 「ひょっとして、ここでされたいわけ? こんな真昼間の大学で、誰が来るかも分かんねーようなとこで?」 「……っ……はぁっ……ん、あっ……!」  耳孔に唇をくっつけながらそう囁き、きゅうっと乳首をキツく摘む。あっという間に熱く火照ってしまった佐波の肌に触れているだけで、俺のペニスも爆発寸前だ。こんな状態で外になんか出られない。佐波の中で射精したい。むらむらと暴力的に高まっていく欲望のまま、俺は佐波をうつ伏せにして、机の上に押しつけた。 「っ……やまと……」 「なるほどね、お前もここでしたかったんだ」 「……そ、んなん、ちゃうし……」 「うそつけ。死ぬほどエロい顔してんぞ」  佐波のシャツを捲り上げると、しなやかな背中が露わになる。濡れた舌で背筋を舐め上げると、佐波は「ひあっ……」とか細い声を上げながら背中をしならせた。床に置いていたカバンに手を伸ばし、俺はコンドームを二つ取り出した。そして一つを、とっくの昔に勃起していた佐波のペニスにつけてやる。 「っ……俺も……?」 「そ。お前、挿れるとすぐイクからさ。さすがにここで潮吹きはマズイだろ」 「し、潮吹きなんかするわけないやろ!!」 「いいから。……ほら、欲しいんだろ?」 「っ……ン」  机に押し付けられ、尻をむき出しにされている佐波の姿は、破滅的にエロかった。しかも、尻たぶを叩く俺を物欲しそうに見つめて、クールな顔を淫らにとろけさせているのだ。俄然、俺の性欲も盛り上がる。  ――……はぁ……もう。どんだけ可愛いんだこいつは……っ!  ジーパンを下ろして、自分のペニスにもゴムをつける。そしてチューブタイプのワセリンを取り出し手で温めると、昨日も散々抜き差しを繰り返した佐波のソコに塗り込んでいく。少し触れるだけで、佐波は「ぁっ!」「ハァっ……ん」と可愛い声で身悶えつつ、白く細い腰をくねらせた。やや充血したそこを指で撫で、浅い部分を押し拡げながら、俺は佐波の背骨を舌先でゆっくりと辿っていく。 「ぁ、あっ……やまとぉ……っ……」 「ハァ〜〜〜……もう、無理。挿れるからな?」 「うん、っ……はやく……ッ……んっ……!!」  ぬぷん……とペニスを佐波の中に埋めていく。十分に慣らしているわけではないけど、昨日の濃厚セックスのおかげか、佐波のアナルはすんなり俺を受け入れてくれた。  佐波のベッドでするセックスもいいが、こうして燦々と陽の入る部室で佐波を抱くのは、いつも以上に興奮した。背徳感がスパイスになる上、俺を受け入れる佐波の小さなアナルも、きめの細かい肌に浮かぶ汗も、愛撫に酔いしれる佐波の表情も、いつにも増してよく見えるからだ。 「ぁ、はぁっ…………やまと、っ……」 「エッロ……最高かよ。……ハァっ……すげぇ、締まる」 「あ、あっ、ァっ……あん、っ……」  俺は上体を起こして佐波の腰を掴み、ゆっくりと腰を振り始めた。ぱんっ、ぱんっ、と腰がぶつかる音が部室に響き、その度に机が揺れる。佐波は机に突っ伏したような格好で尻を突き出し、俺のされるがままになっている。セックスの時は従順で、どこまでも快楽に素直な佐波の一面に、不思議と笑みが漏れてしまう。 「佐波って、こういうトコですんのが好きなんだ。……エロいね」 「っ……ンっ……そんなん、ちゃうっ……ァっ……ぁん、っ……」 「だってさぁ、ベッドでするより感度いいんじゃね? ほら……嬉しそうにヒクついてんぞ」 「あ! ァっ……ぁんっ……!!」  最奥まで咥えさせて腰を揺らしつつ、佐波の乳首に指を這わせると、きゅうっつとナカがきつく締まった。すっかり中イキを覚えてしまった佐波の肉体は、このままずっとハメていたいと思わされるほどに気持ちがいい。ぎゅっと拳を握りしめ、絶頂に震えている佐波をもっといじめてやりたくて、俺はさらに激しく腰を使った。 「ぁ! ぁんっ……! やまと、待っ……っ、ぁ! ぁあっ……」 「待てるわけないじゃん。……あぁ……もう、まじでイイ……佐波、気持ちいいよ」 「あ、あ! ん、ぁっ……ァっ……! あンっ……!」 「いつもより声出てない? どうする? 誰か外で聞いてたら」  低くそう囁いてやると、佐波は途端に声を殺そうとした。でも俺は腰を止めない。ずん、ずん、と深く速いピストンを続けながら、反り返った佐波のペニスをぎゅっと握った。 「っ! …………ンっ……んっ、ぁっ!」 「次の休み時間まで……あと三十分か。あと何回イケるかな」 「ばかっ……そんな、こと……ッ、ぁ、あぅっ……」 「あ〜……俺も一回イきてーな。……ちょっと激しくするけど、いいよな?」 「ふっ……ン……ぁ、っ……やめ、っ……ぁ、ンっ……」  動きを止めると、ひく、ひくっとうごめく佐波の内壁を感じる。求められていると感じられ、なんだかすごく満たされた気分になる。  もどかしげに揺らめく佐波の腰に気づかぬふりをしながら、俺は佐波も耳たぶを甘噛みした。そして、コンドームに包まれた佐波のペニスの根元をゆるゆると扱く。先端にはすでに佐波の体液が溜まっていて、何だか妙に嗜虐的な気分になった。 「ぁ、あっ……やまと……。早う、うごけ……っ」 「佐波って、ちんぽ触られるより、ナカの方がいいんだ?」 「っ……ンぅっ……ナカ、がいい……。ナカ、やないと……イけへん……っ……」 「……あはっ……マジかよエロすぎじゃん」 「うっさい! おまえの、せいやん……っ!」 「ああ、そうだよな。俺の責任。……ほんっと、かわいい」 「ん、んっ……!!」  バックもいいが、トロトロに蕩けた佐波の顔を見ながらセックスがしたくなった。俺は一旦ペニスを抜いて佐波を抱き起こし、机の上であられもなく脚を開かせる。  そして俺たちは、夢中になってセックスの続きに耽った。

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