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第3話
アルファオークションが終わり、陽太は帰宅した。勘助は乗り気ではなかった陽太が、最後の最後でアルファを欲したことに気をよくしたらしい。帰りは、すごく満足した様子だった。
陽太が欲したアルファは、今回のオークションの目玉商品であった。1番美しい見た目だった。身体も最高のものだった。
もちろん、陽太以外のオメガもそのアルファを欲しがった。もちろんだ。オメガにとって、美しいアルファを番にすることは自分の地位をあげるために必要なことだ。だからこそ、どれだけ金額がつり上がろうとも誰も引き下がることはなかった。
これでは拉致が明かない。そう考えたらしい司会者がある提案をした。
“商品であるアルファに、主人を選ばせたらどうだ”と。
アルファがオメガを選ぶなど言語道断だが、この場合は仕方がないのかもしれない。誰もが司会者の意見に納得し、目玉商品であるアルファの誘惑を始めた。
アルファを欲情させるためのフェロモンを撒き散らし近づく。しかし、目玉商品であるアルファは誰のフェロモンにも反応することはなかった。
俺を選んで、俺を選んでとオメガが群がる。陽太も果敢に挑もうとした。しかし、平凡な見た目の陽太が美しいオメガに敵うわけがなかった。
自分には諦めることしか出来ないのか。勘助の、急かすような視線を背中に受けながら諦めていた時だ。アルファが口を開いた。
『あそこにいる男がいい。俺の主人は、あいつに決めた』
そう言ってアルファが指を指したのは、陽太だった。
「ありがとう。俺を選んでくれて」
「別に。ただ面倒だっただけだ」
「でも、俺以上に美しいオメガはいっぱいいた。それなのに君は俺を選んでくれたんだ」
家に帰りつき、陽太はアルファを部屋に連れ込んだ。今日からここで一緒に住むのだ。
あんなにアルファなどいらないと思っていたのに、今では一緒にいるだけで心臓が脈打った。
「変な奴だな。アルファに礼を言うなんて」
「アルファだって俺達と同じだ。お礼だって普通に言うだろ」
「…………変な奴」
「ところで、君の名前は?何て呼べばいい?」
「名前なんてない。俺は産まれてからずっと、買われ続けたアルファだ。名前なんてあるわけないだろ」
少し寂しそうに、そして怒りを押さえるようにしてアルファは言い捨てた。そうだ。この世にアルファの人権などなくて当たり前。名前もない、戸籍もない。そんなアルファ達がいっぱいいるのを知っている。
「そっか。じゃあ、俺が名前をつけていい?」
「つける必要があるのか?」
「あるよ。そうだ!黒陽 はどう?君の黒は、すごくキレイで美しいし。それに、陽は俺の名前にもあるんだ」
「………………」
「番になるんだし、お揃いの文字があってもいいよね」
陽太がそう言うと、アルファ―黒陽―はなんとも言えない表情になった。しかし、次第に面白く感じたのか。ここに来て初めての笑顔を見せてくれた。
「―――――そう、だな」
「うん」
「……………もういっかい、呼んでくれないか?」
黒陽が顔を俯けて、耳を真っ赤にしながら陽太に頼んだ。もう一度、名前を呼んでほしいと。名前を呼ぶくらいどうってことない陽太は、黒陽、黒陽と、何度も名前を呼んであげた。
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