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第4話

「黒陽!こっちだ、こっち!」 陽太が手招きで黒陽を呼べば、小走りで近づいてきた。自分の元に来た黒陽の腕を引っ張りながら、陽太はある場所を指した。 陽太の指が指した方。そこは木の上なんだが。真っ白の毛並みの子猫が、ミーミー鳴いて縮こまっていた。どうやら、自分で木の上まで登ったはいいが降りられなくなったらしい。 最初陽太は自分で助けようとしたが、背の高さの関係でどうしても木に登れなかった。どうしようと考えている時、黒陽に頼ることを思い付いたのだ。 オークションで黒陽を落札してから1ヶ月が経つ。2人の関係は良好で、黒陽は陽太にだけ笑顔を見せるまでになった。陽太が、アルファである黒陽を“道具”としてではなく“人”として扱うからだろう。 オメガの中には、アルファを道具としか思っていない者も多い。それは特に、オメガとして地位の高い人々によく見られる。陽太もオメガとしての地位は父親のお陰で高いが、アルファを道具と思ったことは1度もない。 だからこそ、黒陽も陽太に心を開いてきたのだ。 「どうした陽太」 「あれ見えるだろ?どうしても助けたくて。でも俺、木に登れない」 「登るな。お前が落ちたらどうするんだ。俺が行くから、お前は下で待っとけ」 黒陽の大きな手が、陽太の頭をポンポンと優しく叩く。そして、すごく優しい笑みを黒陽が浮かべるから。その笑みを見ると、陽太の心はいつもキュンキュンするのだ。 持ち前の身長を生かし、黒陽がするすると木の上に登っていく。そして子猫に手が届くところまで行くと、怖がらせないようにそっと手のひらに乗せた。 あとは、下に降りるだけ。慎重に。心配そうに見ている陽太を安心させるように、黒陽はゆっくりとしたスピードで地面に降り立った。 黒陽が地面に降り立つと、陽太はすぐに抱きついた。急に抱きつかれて黒陽はビックリする。自分よりも先に子猫の方に行くと思ったのだ。だが、子猫よりも自分の心配を陽太がしていたことに喜びを感じた。 「ありがとう、陽太。俺を心配してくれて」 「当たり前だ。黒陽は、俺の番なんだから」 「…………そうだな」 黒陽は子猫を抱いていない方の手で、まだ噛み痕の付いていない陽太の(うなじ)を指先で撫でた。

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