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第5話
誰にも邪魔されない、黒陽と陽太の2人の時間がいつもと同じように過ぎると思っていた。
まだ、本当の番になった訳ではない。
『もう少し、お互いのことを知ってそれでも一緒になりたい時に番になろう』
陽太の提案だった。黒陽からすれば、互いのことなど知らなくてもいい。自分はただ子孫を残すための道具だと。
しかし、陽太は黒陽に言ってくれたのだ。お前のことを全部知りたい、と。
だから黒陽は、陽太が自分から番にしてくれと項を自分にさらけ出してくれる日を待ち望んでいる。
自分達には十分時間はあるのだからと。
「僕、そのアルファがどうしても欲しいなぁ!」
オメガ界のトップでもある桜園 家の次期当主成久 が、黒陽を見てそう言った。とあるパーティーでのこと。自分の番だと、陽太が黒陽を桜園家の当主に紹介している時だった。
成久は20歳だが、まだ番がいない。それは成久が、アルファにも完璧を求めたからである。
成久の見た目は、誰が見ても美しいと言うぐらい整っている。だからこそ、美しい自分の隣にいても遜色ないアルファを探し求めていたのだ。
「まだ、そのアルファと番になってないんでしょ。だったら僕に頂戴」
陽太は一瞬、何を言っているのか分からなかった。しかし、隣に立っていた勘助が自分の息子が使ったアルファでよろしいのですかと聞いているのを聞いて、あげるつもりだと悟る。
桜園家は、伊勢崎家が敵う相手ではないと分かっている。
でも、黒陽を成久に渡したくはなかった。
「――――――――あげません」
勘助も成久も、そして黒陽も一斉に陽太を見た。陽太は俯き身体を震わせながらも、必死に言葉を繋いだ。
「黒陽は、俺の番です。例え桜園家の次期当主である成久様に頼まれても、渡すことは出来ません」
「何、言ってるの?桜園家に君は逆らう気?」
成久が、陽太の胸ぐらを掴んだ。掴む手に力を入れられ、息を吸うのが困難になる。それでも、陽太は渡しませんと言い続けた。
「陽太!!貴様は何下らないことを言っているんだ!いいから、成久様にそのアルファを渡すと言うんだ!言え!!」
勘助が陽太に怒鳴る。渡せ、渡せ、そのアルファをさっさと渡してしまえ。代わりのアルファは、いくらでも用意してやるから、と。
「―――――こくよ、うの、かわりは、い、ませ、ん」
陽太の瞳から涙が溢れ落ちた時、黒陽が動いた。
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