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第2話

 次に穂積の意識が浮上したとき、車はするするとスピードを緩め、どこかに停止した。起きなければ、と穂積は思ったが、鉛のような眠気が身体を蝕み、目蓋を上げることでさえ億劫になる。 「着きましたよ、穂積さん」  言葉の端に喜びが垣間見える口調で浅川が言った。と同時に両手を持ち上げられ、どこかに固定される。浅川が支えてくれているのだろうと思ったが、現実は違っていた。きつく締めあげられる感触に穂積は眉根を寄せ、薄く目蓋を開く。暗がりで見えづらかったが、浅川の顔が確かにそこにあった。 「これから荷下ろしします。短い間ですが、ここで待っていてくださいね」  苦手な後輩の顔が大写しになり、穂積は思わず身を引こうとするが、浅川の唇が額に触れる。その意味を考えるよりも早く、穂積はあり得ない状況に気づかされた。浅川が運転席のドアを開けた瞬間、車内に明かりが灯る。オレンジ色の淡いライトが照らしたものはハンドルに結束バンドで拘束された穂積の両腕だった。 「……浅川?」 「ここで、待っていてくださいね」 「浅川!」  穂積の声をかき消すように浅川は強くドアを閉める。再び車内が暗くなり、穂積の両目は光源を探す。しばらくして助手席側の窓に光が差しこみ、そこが目的地なのだと穂積は知った。ログハウスだろうか。建物の窓が外壁を照らし、おぼろげながらに輪郭が見て取れる。古びた木の材質が穂積の不安を助長させる。浅川は自分に危害を加えるつもりなのだろうか。穂積は両手を強く引き拘束を解こうとしたが、手首が擦り切れるばかりで外れる気配がない。悪戦苦闘しているうちに助手席のドアが開かれ、サバイバルナイフを手にした浅川が姿を見せる。喉の奥がひゅっと鳴った。 「寒いですよね。ガクガク震えています。夏の山は寒いんです。ほら、天気が変わりやすいって言うでしょう」 「僕を殺すのか……?」 「いや。すぐに殺すなんて、そんなもったいないことしませんよ。俺は」
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