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第4話
「何だ、これは……?」
それは巨大な檻だ。大型犬用のものを改良したのだろう。大きな檻の前でうずくまる穂積は、事の重大さに今更ながら身体が震え、鳥肌が立ち、冷や汗が出てきた。
「見てわかる通りだ。これはあなたの寝床です。あなたのサイズに合わせて造りました」
浅川は檻の後ろ側で何かの作業をしている。穂積に浅川の考えはわからないが、自分を拘束し、ナイフを向け、巨大な檻を前にしてあなたの寝床と言い張るような危険な男の元から一刻も早く逃げ出したい。
浅川の様子を伺う。彼の意識はこちらに向いていない。今だ、と穂積は心の中で合図をし、外に通じる扉まで走り抜けようとした。だが両腕を拘束されている状態ではうまくバランスが取れない。数メートルは走れたがドアノブを掴む寸前で転んでしまった。
意外なことに背後から迫る浅川は感情をあらわにすることはなく、淡々と事務的に穂積の背を踏みつけ、何かを首に巻きつけた。金属製の鎖だ。一周、二周と重みを増していく枷に穂積の汗が伝う。
背に乗っていた浅川の体重がなくなり、束の間、穂積は解放される。真っ先に首に巻かれた鎖を外そうともがくが、結束バンドなんかよりも強度な枷がまとわりついている。人間に外せるわけがない。近くにあるドアの存在よりも穂積は鎖を外すことに執着した。
そのとき、鎖がじゃらりと引かれ、穂積は背中から倒れた。衝撃で喉を絞められ、倒れた後も穂積は喉元を押さえ何度もえずく。檻の後ろでは浅川が鎖の端を握っており、少しずつ巻き取り始める。穂積の首は浅川に乱暴に引かれる。
穂積は、やめろと叫びながらも喉元の苦しさに何度ももがく。背後から首に巻きつけられた鎖を引き寄せられては寝そべったままの姿勢から立ち上がれない。床の凹凸に背中を擦りそうになる。
やがてがしゃんと何かにあたり、それが巨大な檻の入り口だった。檻のドアは外に開かれており、鎖は檻の中を通して浅川の手元に繋がっている。
充分と時間がかかったが、途中で穂積の体力が尽き、彼は浅川の檻の中に閉じこめられた。
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