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第5話
「少し手狭ですが、なかなか良い造りをしているでしょう?」
檻のドアに頑丈な南京錠を掛け終えた浅川が言った。
「俺は入ったことがないからわからないけど」
「……何が望みなんだ?」
「教えないって言ったでしょ」
浅川は大きなあくびをし、穂積の前から立ち去ろうとする。穂積は声を荒げた。
「僕が君に何かしたか? 君に憎まれるようなことを僕がしたのか? なあ頼む、答えてくれ!」
「俺は八時間寝ないと駄目な男なんだ。根がきっちりしててね。俺からも頼むよ穂積さん。喚いたところで誰にも聞こえやしないけど、俺の睡眠時間だけは奪わないでくださいね」
「せめて両手だけでも解放してくれ!」
檻の中で両手と首を拘束されている状況から少しでも楽になりたい一心で穂積は懇願する。だが浅川は一切聞く耳を持たず、本当に部屋を出て行ってしまった。無情にも、部屋の外から鍵の掛かる音も聞こえる。どこまで閉じこめようとすれば気が済むのだろう。
「僕を侮辱するつもりか! 君が何かするのは勝手だが真っ先に疑われるのはお前だぞ浅川! 聞こえてるだろ、返事くらいしろ! 金が欲しいのか? 金ならやるから僕を解放しろっ! 解放しないと、僕は……」
僕は――続く言葉を探したがすぐに見つからなかった。自分が哀れに見えてくる。両手と首を拘束され檻の中に閉じこめられ身動きが取れない。犬や猫のようなペットのほうがまだ待遇がいいだろう。
「浅川……頼む、お願いだから、せめて拘束だけは外してくれ……っ」
穂積は檻をがしゃがしゃと揺らし、無駄だとわかっていても結束バンドや鎖を外そうと奮闘したが、自分の身に擦り傷ができるだけで、あとは何も変わらない。いつしか肌寒さを感じ始めた。夏の山の天気は変わりやすいとはこのことか。半袖のポロシャツにチノパンでは寒さには勝てない。
穂積は身体を縮め、現実を忘れるために固く目蓋を閉じた。次に目覚めたとき、その場に浅川がいることを望みながら。
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