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第9話

 浅川の発言に穂積は飛びあがるほど驚いたが、浅川の力は強く、顎の骨が折れてしまいそうになるほどがっしりと掴まれていたため、浅川の排泄から逃れることはできなかった。得体のしれない生温かい液体が口の中から喉を犯していく。  これは現実ではない。これは現実ではない。これは現実ではない。  脳内で四度目を唱えようとしたとき、胃の奥から猛烈な吐き気がこみ上げてきた。穂積は浅川に視線で訴えたが、浅川はそもそも穂積のほうを見ておらず明後日の方角を見ていた。  拘束された両手で檻を叩き猛抗議するものの効果は得られず、ついに胃の内容物を吐瀉してしまう。 「あーあ。思っていたより広がったな」  穂積の粗相をたしなめることなく、浅川は性器を仕舞う。一方の穂積は吐瀉物にまみれ、その匂いで再び吐き気がこみ上げてきた。  檻の隅でうずくまって吐いていると、またしても浅川が檻の上から穂積を見下ろして言った。 「ねえ穂積さん。よかったらシャワー浴びない? 首の鎖と両手は解けないけど、一回は綺麗になりたいですよね?」  ありがたい申し出だが、できることならこのまま寝てしまいたい。浅川のことだ。何をされるのかが見当もつかない。きっと酷い目に遭わされるのだろう。  南京錠が開き、檻のドアが開く。浅川は穂積を入れたときと同様に鎖をうまく使い、檻の中の囚人を引っ張り出すと、彼を引きずりながら進んでいく。穂積は鎖と首の間に指を入れ窒息しないように踏ん張ることで精一杯だ。  浅川は後ろを見ることなく進んでいくため、ちょっとした段差でも身体中を打ちつけられそのたびに痛いと叫んだが、浅川は聞く耳をもたなかった。

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