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第10話

 浅川に連れこまれた先は建物の奥まったスペースにあるバスルームだ。冷たいタイルの感触に一刻の心地良さを感じたが、それはバスルームの全貌を見るまでの話だった。 「これは……」 「お風呂場ですよ。お風呂場」  リードのような長い鎖を持て余しながら、浅川が答える。聞きたいのはそういうことではない。バスルームに不似合いなものが穂積の視界に入ったのである。  そのうちのひとつに浅川も気づいたのだろう。思い出したと言わんばかりに、軽快な声を上げた。 「ああ、これはね、置き土産のようなものですよ。まあ話を聞いて俺が付け直したんだけど。でも穂積さん。あなたは鎖のほうがお似合いなので」  それは黒い革の首輪だ。大型犬用のものなのだろうか。首輪には鎖が繋がっており、反対側はタイル張りの壁にしっかり埋めこまれている。 「でも実際に着けてみないとわからないですよね」  浅川は穂積の鎖を片手で持ち、空いた手で首輪をこれ見よがしに持ち上げる。思わず左右に首を振ると、浅川は鼻で笑い首輪を放り投げる。 「まあ、そういう反応すると思ってました。俺も興味ないですし。ただあなたの鎖を持ちながらあなたを綺麗にするのは大変なんですよ。抵抗しないってわかっていればいいんですけど、元気いっぱいですからね。困った人だ。どうしようかな。どうされたいですか?」 「早く楽にしてくれ……」  穂積が願うことはその一点のみだった。

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