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第11話
「すぐに殺さないって言ったでしょう。もったいない」
「どうせ殺すんだろ? もう限界だ。我慢ならない。早く殺してくれ……っ」
「そうムキにならなくてもいいじゃないですか。それにしてもあなたに主導権は無いって、いったいいつになったら理解してくれるんですか。いいですか。あなたをここに連れてくるまで俺がどれだけ我慢したと思ってるんです。あなたの視界に俺が入るまで、俺がどれだけ苦労したと思ってるんです。あなたが今日まで無事に過ごせたのも俺の努力のおかげですからね」
浅川の主張はただの押し付けでしかない。浅川はいつから目を付けていたのだろう。考えたくもない。
「穂積さん、俺の話聞いてます?」
「……どうして僕なんだ」
穂積が戸惑いがちに問うと、浅川はゆっくりと穂積の鎖を引き寄せ、囁くように答える。
「知りたいですか? でも理由を知ったら、あなたはきっと後悔することになると思いますよ。それでも聞きたい?」
浅川の瞳は否定を許さなかった。おずおずと首を縦に振ると、彼の声色が変わった。
「あなたは孤独だ。殺されても誰も探さないし悲しまない。それに今までの中で一番俺のタイプだから」
「僕が……?」
「ああ、違います。あなたのことはタイプだけど、たぶん、そういう意味じゃないです。あまり深い意味はないけど、どうせ殺すなら見た目も良い男がいいでしょう? ね、そう思いませんか?」
穂積は言葉を失う。浅川の問いかけに答える術がなかった。
「穂積さん。あなたをここに連れてきたら、とことん愛するって決めていたんです。もちろん俺なりの愛だけど。でも愛することには変わりないでしょう?」
自分の言葉を実行するかのように、やけにうやうやしい手つきで浅川は穂積の身体を洗う。結局鎖の先を繋がれることはなかったが、殺意とは異なる艶めかしい手つきで全身をまさぐられ、穂積は気力体力ともに尽きた。
温かい湯で身体を清められたことで多少のこわばりは軽減されたが、節々がひどく痛む。特に手首は擦り切れてしまい、ところどころ赤くなっている。苦悶の表情を見たのか、浅川は眉根を寄せた。
「外してほしいですか?」
「外してくれるのか?」
「俺の言うことを素直に聞いてくれたら、そんなバンドなんてすぐに取ってあげるのに」
「何をすればいいんだ……?」
「そうですね。とりあえず今日はもう寝床でおとなしくしていてください。明日になってあなたが素直になっていたら、そのときは外してあげますよ」
浅川の口約束ほど信用できないものはない。だが少しでも自由になれるのなら、今は浅川の言いなりになるべきだと考えた。
承諾すると浅川は過保護なまでに穂積の身体を拭き、それから服を着せることなく檻に戻した。唯一の温もりを奪われたが、これも科せられた試練なのだと割り切り、穂積は無理やり眠りについた。
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