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第13話

 時間の感覚が完全に奪われた。意識を失ったのは実際には数時間だったのかもしれない。だが穂積には何時間も何日間も空白が続いたように感じた。  曖昧な記憶の中で、穂積は何度か浅川に身体を触られたことを覚えている。服はまだ着せられておらず裸のままだ。しかしバスタオルが一枚、檻の片隅に置いてあり、少しでも秘部を隠そうと穂積は腕を伸ばす。  そのときになって両手が自由になっていることに気がついた。そればかりか首に巻きついていた鎖もなくなっている。檻に閉じこめられたままだが、身体を戒める枷を外されただけで、穂積は安堵した。  重い目蓋をこすり手のひらを頬に滑らせると、ぽつぽつと髭が生え始めている。毎朝髭を剃る習慣がある穂積にとっては放置しておけない問題だ。すぐにでも剃刀が欲しかったが、今目の前に置かれたら刃を向ける先は十中八九、浅川だろう。そういえばあの男はどこにいるのだろうか。  大きく深呼吸をすると噎せた。あまり掃除が行き届いていないのか埃っぽいような気がする。それでも何度か深呼吸を繰り返すうちに、幾分呼吸が楽になり、目も覚めてきた。  穂積は改めて自分の状態を見る。服は着ておらず、情けで置かれたものらしいバスタオルで下肢を覆っている。両手首は擦り切れて赤くなっている。見えないがおそらく首も同じ擦り傷がついているであろう。  檻の広さはどうだ。一七〇弱の穂積が横になって寝返りも打てるくらいの広さはある。出入口には鎖と南京錠でがちがちに固められていた。  檻が置かれている部屋はどうだ。目視で八から九畳だと推測できる。建物の外観は古そうで不安はあったが、確かに内装は綺麗にしてある。床はフローリングだし、覆われてしまっているが窓もある。トイレもバスルームもある。  浅川がいつまで穂積を閉じこめておくかはわからないが、穂積が知らないだけで他にも部屋はあるのだろう。古ぼけた外観のわりに、中は充実している。しかし穂積には檻の中しか自由がない。檻を出ることは浅川の許可が必要だろう。  穂積は迷った。ここまま浅川に助けを求め続けるのか、彼の望むようにさせ、彼を受け入るのか。何かしらのチャンスを待ち、浅川を殺すか、できなければ自分自身を殺す。  浅川は急に穂積の拘束を解き、半分ほど解放した。少なくとも浅川の心にプラスのアクションが働いたのだろう。穂積の手と首を解放したのも、浅川の心情に何か変化があったんだ。きっと、そうだと信じたい。

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