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第4話
「なぁ」
すっごいイライラしてるから無視。
「なぁってば」
遅いよ~時雨様~。
「あのなぁ……聞けよ! わざとか?」
「あ、いたんですか? 晴人様」
「……そろそろ誕生日なんだけど俺」
何か言いたげそうだけどそんなのはどうでもいい。遅い! 真希様ともしかして……。
「聞けよ! 父さんに言って時雨兄さんからお前を奪ってやるからな」
「時雨様は頷かないと思うし、当主様はきっとメイドさんを用意すると思うよ」
「おいやらせろよ!」
ため息を吐いて僕は相手にしないことにした。
それでもうるさい晴人。
嫌になるけど、それどころじゃない。
「あーもーヤる! こっちに来い」
「うわっ!」
がたっ!
「……痛ぅ」
なんと僕は晴人の上に馬乗りになっていた。
晴人はニヤリと笑いキスしようとするけど、僕は突き飛ばして時雨様の部屋へと逃げ込んでしまった。
ドアの向うから『どこ言ったんだぁあいつ!』と聞こえ、いつも時雨様が座る机の下に隠れた。
「……行ったかな?」
ホッと胸を撫で下ろすと、この時雨様の部屋に、居るべきはずの主が居ないことが淋しくて仕方なかった。何よりも真っ暗な部屋にポツンと一人きり……。
「時雨様は真希様とどこまで進んでんだろう……抱いれたりとか……? キスしたりだとかしてるのかな?」
不意に襲う嫉妬と喪失感にいても立っても居られず、自分の肩を抱き震えていた。
「時雨さん、今日こそお部屋いれていただけますよね?」
「あれ? ……なるほど。どうぞ」
(時雨様と真希様だ……部屋に入れるなんて! 今まで一回もなかったのに。僕と時雨様の愛の巣だったはずなのに!)
握りしめる拳に力が入る。
「時雨さん、今日泊まってっていいかしら?」
「客室を用意させるよ」
抜かりない対応。
でも、
「そろそろ私のこと抱いてくださらない?」
「まだ、そういう段階ではないと思うのですが……もう少し待っていただけませんか?」
僕は青ざめていた。
僕の好きな時雨様が取られちゃう……。
嗚咽が漏れそうなのを我慢しながら静かに涙が流れる。僕じゃない人を抱くなんて事を……。
「キスすらしてくださらないなんて……。キスしていただけるまで帰りませんわ。私」
「……」
僕はしないでと願った。強く強く。
でも残酷にも時雨様は、
「真希さん、キスをする時は、目をつぶっていただけませんか?」
「ええ」
トントン。
ノックをする音が聞こえる。
「時雨兄さん、っと、お邪魔でしたか? お邪魔ついでに聴きたいことが。梓馬どこにいるか知らない?」
「いや、私は知らないけれども」
「……やっぱり、時雨兄さんには渡さないから」
と捨て台詞を吐いて部屋を出てしまった。
状況がイマイチつかめないけど。真希様はしらけたようで帰ると言い出した。
僕はといえば、もう涙でいっぱいでそれどころではなかった。
部屋を出た二人に僕は嗚咽を漏らしながら時雨様の残り香のする寝室へと移動して横になった。
とにかく訴えたかった。
僕はここにいると。
時雨様の香りがする枕を抱きかかえ、大雨のような涙で嗚咽を漏らしながらまるでその枕が時雨様かのように大切に抱きしめた。まだ戻らない。サビシイ……。
「時雨様ぁ、早く帰ってきてください。じゃないとこの香りで時雨様を穢してしまいそう……。」
自分のあそこは正直で参ってしまう。
帰ってくる前に……。
僕はた躊躇った。横になり体全体を覆う時雨様の香りに酔いしれてるけど、今はあらぬ心配でだめになりそう。
『待っていましたか? どこをいじっていたんですか?』
なんて聞かれたら恥ずかしくて死んじゃう……。
あそこは微妙に勃っててもどかしい。
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