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第18話
「兄さん、僕の誕生日の日にそんな物騒な話やめてくれないかな? 兄さんは独りでなんでもできるじゃないか? 梓馬の一人ぐらいくれた……」
時雨様の目が怒りに燃えている。ああなった時雨様は止まらないのをよく知っている僕は晴人様から離れ、時雨様にしがみつく。
「梓馬は渡しません。父上の命であってもです。わかりましたか?」
「……晴人、お前は今まで通りの都にメイドを任されなさい。すまない。不甲斐ない父で」
晴人様は押し黙る。何か考えている。
やがてケーキが運ばれてきて、ローソクに火を灯す。
僕はひっそりと時雨様の近くに行き、見守る。
京さんと都さんが近くにいる為か、少し落ち着きが無い。
電気が消えた瞬間僕は苦しくなった。
「んん……あああっ――だめ、だ……く、るし……何!?」
思い当たるといえば、発情期しかない。
こんな時に……!
ローソクが消えた瞬間僕は……。
「っつ!!」
「っひゃぁ!」
明かりが灯るとそこには京さんの項にかぶりつく晴人様がいた。
「う、うわぁああああああなんで、京がいるんだよ。なんでだよ! 梓馬を噛むつもりだったのに! お前!」
僕はというと時雨様にお姫様抱っこされていた。
息苦しい中、身を委ねていると
「梓馬、行こうか。ここだと迷惑がかかるからね。晴人、義母上、父上失礼します」
「待って兄さん、俺まだ……京!? 京どうしたの?」
場は騒然としていたけれど、僕はこの苦しみから抜け出したいと思っていた。歪(いが)みあうのも嫌いだし、発情期で誰に噛まれるかもわからない恐怖もあるし。
時雨様は僕を大切そうに抱き甘い匂いを撒き散らしながらその場を離れた。
「芳しいなこの薫りは。誘ってる梓馬可愛い」
「ぅ……ぁ……僕から離れた方がいいです」
時雨様の寝台に寝かされ顔を覗きこまれる。
「昨日言ったよね。一つだけ望みを聞くって」
「ぅぅ――は、はい。ぅぅぅ……なんでしょうか?」
「梓馬が欲しい。番になろう。いいね?」
「!?」
チョーカーを外され、神聖な儀式をするかのように……。口に頬に、指先に、鎖骨にそして……。
「あっ――!!」
僕はとっさに時雨様を拒否してしまった。
怖くて。どうしたらいいかわからなかったから。
でも時雨様はショックを受けたかのように、僕に向かってこう囁いた。
「私が君を傷つけてしまうのはいやだから、違う願い事にする。梓馬は絶対に誰にも渡したりしたくないから、永遠に私から離れてはいけないよ。私だけの梓馬になりなさい」
その言葉に僕は嗚咽を漏らしてしまう。
そんな事言われて嬉しく無いわけない。
嬉しくて、なんだか心が暖かくて抱きしめられる腕の中で僕は意識を失った。
「決して離したりしないからね。何があっても、梓馬は私だけのものなのだから――お預けはきついけど、愛してる君の為なら私は待つよ。おやすみ梓馬」
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