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第20話
「都さん、すごい……」
前段不問ではないだろうか? 主の頬を叩くなんて。
潔さに僕はびっくりしていると、都さんが言った。
「晴人様、多分、私の予想だけど、京に惚れるよ」
「惚れられるのは避けたいけど、番になったのは仕方のないことだから、主の為に『従順』に尽くすよ。梓馬はまだかまれてないのか。焦らすねぇ。」
「ホントよねぇ、あの時雨様がここまで焦らして、後が怖そうだわ」
……時雨様優しいけどなぁ。
そして僕が混乱しているのを見て、寝ている間の事をかいつまんで話してくれた。
やはり動揺が隠せないでいたらしい晴人様。
晴人様からの愛は痛いほど感じていたけれど、応える気にはならなかったから。
「あずちゃんは本当に愛されキャラよねぇ。羨ましいわぁ」
「僕は晴人様を手打ちにした都さんが怖いです……格好よかったけど」
京さんは穏やかな笑顔でこう言った。
「本当に僕もびっくりしたよ。まさか平手打ちするなんて思わなかった。まぁ、都の代わりが務まるかって言ったら不安だけど、僕なりにこなすよ」
「ホントよう? 私が狙ってた獲物に目をつけられたんだからきちんとしてね? 京ならできると思うけど。私の弟だし。しっかりしてるからね」
僕は頬が緩まる。この二人は本当にすごいなって。だって、仲良しだから。僕にはない絆で
結ばれてて憧れもあった。
京さんは、気の毒だなぁって思ってしまう。ついつい。好きでも無い相手に噛まれて番にさせられてよくこんなに平常心でいられるもんだなぁと。
「案外、京って晴人様のこと好きなのよね。隠れてお菓子とか、勉強とか教えて上げてたし」
「へぇ~」
しれっとした態度で切り返す京さん。
「主の事を思わない執事なんているのかい?」
流石だなぁと感心してしまった。
僕は全力で拒否をしてしまったから。晴人様のお付きになるのは御免こうむると。
それにしても暗闇に紛れて噛もうとするなんて……なんていう獰猛(どうもう)な人なんだろう。
怖いなぁと身震いしてしまった。
あの時噛まれていたら、僕はきっと僕のままでは居られなかっただろうなぁと思った。
そして、時雨様の事を思うと胸が『ッキュ』と疼く。
昨日、どうして拒否してしまったんだろうって。
怖くても噛まれてしまえばよかったな……。
「京、遅い! 俺が呼んでんだから来い」
晴人様が執事を呼ぶベルを鳴らしていたようだ。
京さんは笑って言ってくると言って行ってしまった。
結構都さんの『晴人様が京さんに惚れる説』は外れてなんかいなくって、当たっちゃうんじゃないかっていう確信を持った。
「梓馬、平気かい? あ、都ちゃんもここにいたのか」
「あ、お邪魔虫は消えまーす。じゃぁねあずちゃん。時雨様も程々に」
ひょっこり、顔を出してくれる時雨様。どうやら心配だったらしい。
晴人様を平手打ちにした都さんの話をしたら『女の子は怒ると怖いねぇ』などと笑って居た。
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