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第21話 晴人と京
じーー。じーー。
「なんですか晴人様?」
「いや、別にぃ……じーーじとーー」
見れば見るほど、梓馬とは違う。でも、可愛い。景ってこんなに可愛かっただろうか?
俺は少し照れくさくなって観察するのをやめると、自分の部屋のベッドに横になった。
――ああ、梓馬を諦めなきゃいけない日が来るとは……。
悔しい……。兄さんのモノと考えるだけで冬にかける毛布を奪われて寒い思いをする、そんな切なさといじめにあっているような感覚に陥った。
「――ると様。晴人様? 寝てしまわれましたか? 、あ、起きられましたね!」
眼の前には景が笑顔で俺を見つめていた。馬乗りで。ベッドの上に組み敷かれているように。
こいつ天然か?
などと思っていると、京は俺の好物を都から聴いたのだろう作ってきたというのだ。ようは『お茶にしませんか?』というお誘いだった。
「飲んでやらなくもねぇ」
「ありがとうございます。用意は万端でございます」
俺専属の執事になって早一週間、完璧といえるような立ち振舞、気品、気遣い。どれをとっても非の打ち所がない。あるとすれば、梓馬じゃないことそれだけ。
でも、そんな事を言っても、始まらない。俺の執事は京だ。たとえ過ちでも、番に鳴ってしまった以上梓馬を追いかけるのは景に悪い。
ここ一週間で梓馬への恋心を封印したけれど、やっぱり淋しい。
「俺は茉莉花茶が飲みたい。わかっているだろうな?」
「存じ上げております。晴人様はお高い手もみでまるめてある、ジャスミンの花が少ない物をご所望ですよね。大変上品で、美味しいものです」
よくできた執事だ。
一週間前にもらった桔梗の花が生けててある花瓶を見ると胸がざわつくのだ。
気にくわいない。梓馬みたいに失敗すれば、笑えるのに。
「いただこうか、ん? これはなんだ?」
「あ……ご主人様に食べていただきたくて、頑張ったのですが、やはり出すべきでなかったですね。捨てます。お忘れになってく――」
「もぐ……ん、イケるじゃないか京。見てくれは微妙だが味は美味しいぞ」
欠点みーつけた。でもうまかったし、何もいえないなぁ。
手が器用では無いのだろうか?
そういえば、誕生日の日に梓馬からもらったスイートポテトの味が忘れられない。はぁ……失恋してしまったのに。
「晴人様苦虫を潰したような顔をなさっております。まったり生きましょう。 どうぞ、茉莉花茶でございます。薫りがとてもいいですよ。」
クンクン、確かにいい。美味しいそうだ。
「んくんく……――あっちぃ! やけどをしたじゃないか京。どうしてくれるんだ」
行き場の無い鬱憤を京で晴らそうとしている俺。どうしようもない。
すると芽をつぶって下さいという京。氷か何かか?
それは甘い口づけだった。
「な、何を――んちゅ、んん、ふ、れるれろ……んっ! ふぁぁ」
「どうですか? やけど」
こいつ、舌を絡めてきやがった。この俺に。俺専属の執事になったからって調子に乗ってるんじゃないか?
心配そうなうるうるとした瞳にほだされ、文句を言うにも言えない状況。
(やられた……)
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