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第30話
「あ、私には梓馬という大切な専属執事がいるからすまないね。専属にはできないんだ。君にはたまに晴人や私の世話をしてもらう程度なんだよ」
「そんな、僕はおはようからお休みまで時雨様にお使えしたく思っておりました。でも、それは叶わないのですか? 僕はいらない子なんでしょうか?」
ぅ、純粋に時雨様を慕ってる。僕も最初から時雨様を慕えたらもっと深い関係になって、『番』という強固な関係を築けてたのかな?
淋しい、時雨様、僕、淋しいよ。
「んー。頑張りによってはだけど、専属は無理だけれども、お世話の回数を増やす事ぐらいはできるよ。君はいらない子じゃないよ。大丈夫」
「だったら、どうして専属にしてくれないんですか。僕、きっと時雨様の事、満足させられると思うんです。その……エッチなこともできますよ?」
「私は求めていないからそういうことは。すまないけれども、他の人を当たってもらえると嬉しいな」
静寂が広がる。何か考えてるのかなぁ? ドアに聞き耳を立てて聴いていると、
「時雨様!」
「わっと、いきなりなんだい。だめだよ。人に突撃してきたら。転んでしまうだろう。それに、抱きつくのもってま――ん……ん…‥やめなさい。礼儀にかけている」
「嫌です。僕は時雨様のモノになるために生まれてきたんだ。キスだってしたいです。それに。僕もう我慢できません。抱いて下さい」
キス……しちゃったの!? え? え!? 待って僕の時雨様が――。頬涙が伝う事がわかった。抱いてって、抱いてしまうんですか? 時雨様。
「離れてくれるかな? 梓馬出ておいで。いいからおいで。泣いているんだろう。おいで」
「えっ!? 梓馬って人誰ですか!?」
僕は涙を必死に堪え、ドアを開けて時雨様の前に行くと、『抱きつかれている時雨様』が目に入る。僕は何も言えなかった。ただ、縋り付きたいのを我慢して手の拳を『ッギュ』と握って耐えた。
「離れて?」
「嫌です! 僕の時雨様に貰ってもらうんです。その子より僕の方が有能になりますから!」
「僕、お邪魔のようなので、失礼致しま――」
僕は淋しい気持ちと悲しい気持ちでいっぱいで、この場に居られなかった。僕は有能ではないし、成さんを見た所僕なんかより可愛らしいし。僕の出る幕じゃない……。
僕は出口へと行こうとすると手を引っ張られ……。
時雨様はなんと成さんを突き飛ばして僕を抱きしめてくれた。強く強く。
そして、濃厚な甘いキスをプレゼントしてくれた。
「んん……ちゅ」
「こういう事。私には梓馬だけいればいいんだ。申し訳ないけれども」
は、恥ずかしい。人前で! でも少し嬉しい。時雨様……見直しました。
「時雨様が穢れる! 離れろ!」
そう言うと成さんは僕の腕を掴み引っ張ると、自分が突き飛ばされたように僕を突き飛ばした。
「兄さん、何してるの? どうなるかと思ったらやっぱりこうなったか。日向、度が過ぎるよ。兄さんの『お気に入りの梓馬』にそんな事したら首になってもおかしくないよ」
「僕の時雨様が! こんなもやしに奪われてたまるものか! 時雨様、僕は諦めません。時雨様の従者になることこそ僕の目標。必ずやその悪魔(あずま)から時雨様の目を覚まさせてみせます」
「はぁ……無理だと思うけどなぁ」
といいつつ、晴人様は僕に手を貸してくれるけれども、時雨様がその手を払いのけると、僕を起こして抱きしめてくれる。
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