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第31話

「見せてくれちゃって。日向諦めな。この二人は強固な絆で結ばれてるから」 「噛まれてもいないくせにどうせ、こいつが時雨様をそそのかした! 僕の時雨様を! 時雨様、もし、本当に心から愛しているのであれば、既に噛んでいますよね。噛まないということは絶対になにかある。僕はそれにかける」  時雨様は少し焦った様子でいておられて、どうしてしまったんだろう。  僕の目を見てくれない。 「……。兄さんいつまで引きずってるの? そろそろ梓馬のこときちんと見なきゃ梓馬居なくなっちゃうよ?」  虚ろな時雨様が居て、僕は何もできない。歯がゆい。晴人様の言葉もきになるし……。  どうしてしまったの。小刻みに震える体躯を僕は一生懸命抱きついて『大丈夫ですよ』と伝えるけど、時雨様は蒼白な顔で僕を見つめるだけだった。 「私は『番』などいらない。いてはいけないんだ」 「兄さん、まだ『朱羅(あきら)』のこと引きずってるの? もう時効でしょ。自分を許してあげなよ。折角梓馬っていう大切な存在が入るのに、梓馬が可哀想だ」  朱羅って誰?  それよりも『番』などいらないという発言に僕はどんな顔をしていいかわからくて、思わずくしゃりと顔を歪めてしまう。いつもの時雨様なら『そんな顔しないで大丈夫だから』って言ってくれるのに……・  晴人様は近づくと思いっきり振りかぶって時雨様の頬を叩いた。 「なっ……」 「バカ兄貴! 少しは梓馬の気持ちを考えろ! あんなに梓馬のことを気に入って手放さなかったのに。俺が貰いたかったのに、邪魔したくせに今更何いってんの?」 「うるさいな。朱羅は朱羅は……」  時雨様の目に涙が……。そんなに大切な人なの? ボクヨリモ?  僕を抱きしめる力が弱まっていることに気づき、僕は精一杯抱きしめようとしても時雨様は一向に手に力をこめようとせず、ただ、ただ、黙り込んでいた。 「僕にもチャンスは有るってことですね。梓馬さんとやら、貴方は心底愛されてないようだから僕は全力でいきます」  僕にはなんの力も残されていなかった。愛されてるって思ってたのに……。  僕は時雨様から離れると夢中で走って逃げてしまった。 「あ、あずま!」  時雨様の声が木霊してきこえたけれど、振り返らず、自分の部屋につくと思いっきり泣き崩れた。

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