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第32話
『コンコン』
一体どれだけの時間が経ったのであろう。僕は部屋に鍵をかけて外界から全てを遮断していた。でも『コンコン』という音は何度となく聞こえるわけで。
「梓馬……すまないでてきてくれないか? 話があるんだ」
「……」
「梓馬に。朴木梓馬に言い渡す事がある。主の命だ。開けなさい」
だるい。誰の命令にも従いたくない。僕はベッドで横になったまま泣いても泣いてもでる涙が止まらずに居た。いつの間にか夜になっていて、月が部屋を照らす。
「梓馬!」
「……」
僕は返事もしない。腑抜けてしまったかのように、頭で『朱羅』という二文字だけが響く。愛おしそうにいっていた声とともに。
「朴木梓馬、君を私の専属から外す。勝手なことを言ってすまない。いつも通りにはできないだろうけれども、どうか、この家の為に働いてくれ。以上だ」
ついに告げられてしまった言葉。僕は必要のない子になってしまった。
僕は扉から気配が消えるのを確認すると、ボストンバッグに衣服を詰めてみんなが寝静まっている間に榛家を飛び出した。
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