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第33話 時雨様視点

「兄さん! 兄さん! 大変だよ!」 「あまり怒鳴らないでくれ、あまり寝れていないんだ」  私は、不愉快そうに目を冷ますと弟の晴人がすごい形相で私の髪を引っ張る。 「わかった起きる。起きるから引っ張るんじゃない」  それでも晴人は離そうとはせず、仕方なく体を起こし何が起きたのかと聞こうとすると。 「梓馬が! 梓馬がいない!」 「え!? 何処か散歩にいってるんじゃないかい?」  昨日冷たい事を言い渡したし、嫌な予感がするのだが、それでも私は平常心を保とうと努めているが、 「荷物がごっそり消えてるんだ。京が心配になって部屋を覗いたら!」  頭が痛い。そんな梓馬が。梓馬がいなくなるなんて。  そんな訳ない。あの子は私にべったり……私が傷を付けてしまったのかと眠い頭で記憶を呼び起こして考えていた。  無理もないか……。案外冷静に振る舞えるものだなと自分でも『冷たい心』と直面するけれども、手が震えていることに気づいた。  あの子は大丈夫。いつまでも私を待っていてくれると高をくくったせいだろうか……。 「梓馬は行く宛無いんだよ? そんな梓馬が何処かへ行ったら、しかもΩの梓馬なんだよ? 誰に噛まれても文句がいえないんだよ兄さん!」 「あ……」 「あ、じゃないよ兄さん。なんて事してるんだ。兄さんは狂ってる。朱羅なんて忘れてればよかったのに。兄さんのバカ! 梓馬に何かあったらどうするんだ!」  なんて事を言ってしまったんだろう。  私は三年前約束したはずなのに。 『私が梓馬の居場所になる』と。  そんな事を忘れて朱羅に囚われて、遠ざけてしまったなんて!  梓馬には行く宛が無い。そう、病気だった母親に先立たれ、無一文になって、この家に引き取られることになった彼なのだから。 「兄さん、梓馬にどうしてあんなこといっちゃったんだよ。専属を外すなんて! 京が心配して梓馬の部屋を見たりしてたんだぞ。でも眠さに勝てずに寝てたらいつの間にかいなくなったって! 兄さんのバカ!」  ほとぼりが覚めるまでと思って突き放したのが良くなかった。梓馬はそんなに精神が強くないことを視野にいれるべきだった。  失ってしまう。なんとかしなくては……。  痛いほどあの子の泣く姿が頭を支配する。 「梓馬が死んだらどうすんだよ兄さん!」  その瞬間私の中の何かが弾けた。そうだ、大切にしなくてはいけないのは梓馬の心だったと。死んだ人間をいつまでも思っても仕方ないと何度言い聞かせても自分が納得できなかったのに、今は素直に梓馬が大事だと言える。 「兄さん? いい? 梓馬の事一番理解しているのは兄さんじゃなかったの? 違うの? 行きそうな宛とかわからないの? 黙ってないで答えろよ!」 「梓馬の行く宛、私は知らない。どうしたらいいんだろう……」  苦い現実を突きつけられ、私は半身を失ったかのような感覚に陥っていた。 「さぁ、早くベッド出て、探そうよ。今日は俺、学校休むから、梓馬は大事な執事だ。兄さんもそうだろう?」 「その通りだ!」  私は寝室着で出ていこうとしていたのに気づき、晴人に断り、着替えると警察に電話をした。

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