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第35話 時雨様side

 やっとのことで梓馬を取り戻すことに成功した私は梓馬を抱きしめ 「梓馬! すまなかった。すまない。本当にすまない」 「……」 「梓馬噛まれたりしていないかい? 帰ったらみんな話すから私のところへ帰って来ておくれ」  私は一生懸命梓馬を抱きしめもう離さないとばかりに抱きしめるも梓馬からはなんの返事もない。  おかしいなと思い梓馬を見ると目がぼんやりとしていて、目の前に居る私をただ瞳に映しているだけのように思えた。  鎖骨には薄っすらと噛み跡が残り、情事の後だということがわかった。 「時雨様は僕を捨てたんだからいらないですよね。僕のことより新しく来た人のことを考えてあげて下さい。僕は戻りません」 「梓馬! 許してくれ、私の配慮が足らなかった。私の可愛い梓馬お願いだからそんなことはいわないでくれ」 「こんな穢れた体では仕えられません」  まともに私の目を見てくれない梓馬に正直にいうと、無理矢理でもこの場ででも抱いて、目を覚まさせたかったのだが、強情にも梓馬は『うん』と頷いてくれない。 「あずは私がいいんですよ。榛さん、しつこいですよ。あずが嫌がっています。かえって頂けませんか?」  私は気安く『あず』と呼ぶこの下衆をどん底へと落としてしまいたかった。否、本当に落としたいのは自分自身。  あんなに梓馬は私を慕ってくれていたのに……過去のことなど捨て置けばよかったのに、大事な物を失うのはもう懲り懲りだ。 「梓馬が嫌がってももう離さないよ」  私はそう言うと、梓馬にあげたチョーカーを丁寧に外す。 「あずに何をする! ふざけるな! 私のあ――」 「誰がお前の梓馬だと言った。梓馬は私のものだ。それ以上でもそれ以下でもない。私だけの梓馬だ。絶対に離さない。もう過去に縛り付けられるのはごめんだ。梓馬済まなかった。愛してるよ梓馬」 「あ、あ!! ああああ!!!」 「いや……どうして……僕はこんなに穢れちゃったのにどうして噛んでしまうの? どうして、やめてやめて! ふ、あ……あああ……!」  項に噛みつき『番』になった。  これで梓馬は誰にも渡さない。梓馬がたとえ嫌がろうとも私のモノだ。  私は征服欲に駆り立てられていた。梓馬の言葉を聞くまでは…‥。 「死にたい……」  梓馬の心の叫びを聴いた私は必死に抱きしめ唇を貪った。梓馬は目に涙を浮かべていこうという抵抗をせずただ、涙するだけだった。  どんなに舌を絡めても梓馬はノッてこない。今までこんなことはなかった。  梓馬を変えてしまったのは私なのか後悔の波が襲ってきて、私を狂わせる。  梓馬が愛しいのに遠ざけてしまった弱さを呪いたかった。 「梓馬、私の為に生きて。生きて。お願いだ。君を笑顔にするのが私の仕事だから、君をちゃんと笑顔にするから死にたいなんていわないでくれ。君のことを愛しているんだ。梓馬私が君の居場所なんだ」 私はそう言うとそのまま梓馬を抱え車に乗せると連れてかえってしまった。  南は相当に怒りを表にして、私を殴ってきたがそんなことは気にせず、梓馬を抱きしめ離さないようにそっと手をつなぎ車を運転した。

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