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第36話 時雨様語る。
真夜中になって家に着き、誰にもさとられないようにそっと鍵を開けると、梓馬を壊れものを扱うように抱きしめ自分の部屋へと上がった。
車の中で繰り返していた『死んでしまいたい』という気持ちを捨てさせるために、私は梓馬をこれから犯す(抱く)。
相も変わらず、梓馬からは応答が無いが、手は必死に握っていてくれたからなんとかなるとおもったのだが、梓馬は一向に遠くを見つめているだけで私の方を見る気配がない。
これじゃぁレイプだ。
こんなにも梓馬を傷つけてしまったのだという大きな罪悪感が頭を支配する。
梓馬はどうしたらもどるんだろう。そう考えていると、朱羅の話をしようと思い梓馬に語りかけた。
「朱羅はね、とっても可愛い男の子だったんだ。君とは比べ物にならないくらいお天馬でちょっと抜けてるところがあって。可愛かった。けれど、もともと体が弱い上に、治らない病にかかってしまったんだ。私は焦ったよ。君を愛する様に彼を愛していたから」
頭を撫でると少し、聞き耳を立てている感じだったため続けた。
「朱羅は最後まで、生きようと頑張って頑張って私を置いて死んでしまった。もう恋なんてするもんかと思ったよ。愛おしかった朱羅が頭から離れなくて、死のうとも思った。でも、その時に、君が来たんだ。梓馬の事を見て、正直、胸が騒いだ。愛してはだめだって。愛したらまた一人にされてしまうって」
髪を撫でて上げると少しだけ首を傾けてくれる。
「愛おしいって思ったのは、君が最初は今みたいに無機質で、私がキスをした時に初めて怒った時なんだ。君にキスをするなんて思っても見なかった。怖かったけれど、いつの間にかしていた。それだけ君に夢中になっていたんだろうね」
梓馬の頬に一筋に涙が流れる。嗚呼聴いてくれているんだと私は思った。
「梓馬が笑えば嬉しくて、ちょっかいをかけて怒れば、可愛くて、あの頃は無我夢中で君をいじってた。愛おしいから朱羅のことすら忘れていた。梓馬君は私に本当に愛されてるんだ。私は君の居場所でもあって、梓馬は私の居場所でもあるんだよ。だから、死にたいなんていわないでくれ」
「でも……僕は穢れちゃったから一緒にいれません」
梓馬から否定の声が上がったが私は続けた。
一つずつ一つずつ言葉を愛でくるみ送り届けるように。
「梓馬が私を癒やしてくれたから、梓馬を大事にしたくて、今日私は君を噛んだ。『番』になることを決意したんだ。君じゃなきゃだめだって思った。朱羅でもなく、成くんでもなくだ。君じゃなきゃ嫌なんだ。体の関係を持たなくてもいい。君が嫌だというなら待つからお願いだから私の専属の執事になってくれ」
懇願していた。君を離したくなくて私は、ありったけの思いでキスをすると、梓馬は少しだけ反応して舌を吸い上げてくれた。
「梓馬、愛してる。愛しすぎて狂いそうなぐらい愛している、この思いは誰も止められない。君にも止めることは無理だよ。受け入れて。大人しく」
優しいキスを繰り返すと梓馬のすすり泣く声がした。
「僕は、穢れてしまったから専属にはなれません。抱いてもらうことすら叶いません。それでもいいですか?」
「君の意見を変わらせるっていう意気込みは大いにあるよ。君は私が一度変えたんだ。二度目だってありえる。変えてみせるよ。寝ちゃったか。おやすみ梓馬」
私は今日噛んだ項を舐めあげると抱きしめて眠りについた。
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