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第44話
「梓馬くん! 私と付き合ってくださいっ!」
「え、いや……えと。僕、付き合えません。知らない人とは……好きなひ――」
「ずっと好きでした。可愛い梓馬くんが私の傍にいてくれれば、私はなんでもできる! 梓馬くんが一生懸命執事の仕事してるの、楽させてあげたい! 私、頑張るから。お願い」
参ったな……。後ろでは晴人様が聞いているし、嘘はつけないよね。
でも女の子が一生懸命になって告白してくれてるという事がちょっぴり嬉しかった。
こんな僕でも好きになってくれる人がいるなんて、喜ばしいことなんだけど。素直に喜べないのは時雨様という、大きな存在がいるから。
あの方がいるから僕はこの世にいられる……なんて、だいそれた事いっちゃうけど、どうしても、時雨様がいないと生きていけない躰になってしまったから。
だから、ここは真摯に断ろう。
「僕、付き合ってる人いるんで、ごめんなさい。すごく嬉しかったけど、その人がいないと僕生きていけないから、ごめんね?」
「やだぁ! 梓馬くんじゃないと私だめなの! こんなに可愛い男の子をぺろぺろできないなんて死んじゃう!」
(ペロペロって……。この子、頭、大丈夫?)
少し引き気味で僕は距離をとった。だって抱きついて来そうだったから。
「はいはい。そこの女子、張り切りすぎ! 梓馬はこの俺のダチでもあり、ご主人代行でもあるんだからそれ以上近づかないでくれるかな?」
「は、晴人様……。ひどいです。私本気なのに、邪魔するなんて、私は梓馬くんがどんな事してたって構わない。浮気しようと、絶対振り向かせる。梓馬くん私お得だよ。浮気しても怒らないし……ねっ?」
女の子は怖い。平気で『浮気』なんていうけど、きっと鬼の形相になるに違いない。
そうに違いない。はぁ~。女の子はその場のノリでものを申すから嫌い。
時雨様は歯の浮くようなセリフはいうけど、決して、ノリでは……言わないよね……?
自信なくなってきた。
「ごめんなさい。僕は付き合えません。何を言われても好きな人にしか抱きしめられたくないし、好きな人にしか好きって言われたくない。失礼します」
「ちょっ……梓馬くんっ!」
僕は必死に走って逃げてしまった。
帰ったら時雨様に抱きついてキスしてもらおう。
それで、……一緒にお風呂入って、一緒に眠って……。
僕無理してるのかな。
やっぱり抱かれたい。
抱かれてしまいたい。
「梓馬、おかえり。どうしたんだい? 真剣な顔をし……甘えたいのかい? 私の部屋へ行こうか」
「時雨様は、僕の事、好きですか?」
極上の笑顔で何を今更とばかりに、
「愛しているに決まっているだろう?」
顔を真っ赤にしているであろう僕は、はにかみながら手を『っぎゅ』と繋いだ。
背の高い時雨様はおでこに『っちゅ』とキスを落としてきてくれて、部屋へといそいそと歩み歩いった。
愛しているに決まってるだろうって言われて嬉しい僕は笑顔の後ろに隠れた、欲望に気づかなかった。
きっかけに過ぎないけれども、僕は、見事はめられてしまう事になってしまうとは思わなかった。
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