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16.経験者
次の日も加賀谷さんと三人が山に向かった。
昨日、推し語りに夢中になって撮れなかった絵を撮るのだ! つまり山を走る神を!
その一心で昨日のまま放置されてたママチャリに飛び乗って追っかけた。てか誰のチャリなんだコレ? まあいいけど。
公道走ってるときは、歩道が狭いのと車道は車がいて距離取れなくて、全体の姿がなかなか撮れなかい。しかもチャリ漕ぎながら撮影って厳しいぜっ!
んだけど、山ん中に入れば! きっとイイ絵撮れる! ……と思ってたのに山道はもっと狭くて、横から全体撮れねえ。
しょうがなく後ろから追っかける感じで撮ってたんだけど、そうすっと他の三人も入っちまう。う~~んなかなか加賀谷さんだけってわけにいかねーなー、 んでもって山道はデコボコしてて、オン・ザ・チャリ撮影が超ムズい! しかし負けねえ! 神映像ゲットのためだ! 頑張れ俺っ! つって必死にやってて
……気づいた。
さっきまで並んで走ってた三人のうち一人、ちょびっとだけ遅れてる。それに走り方、なんか変だ。てかヤな感じした。
あれってワンチャン痛くなってね? それ、かばってるとか……?
でも違うかもだし、練習してんの勝手に止めちゃマズくね? でも、もし痛いんだったら……そんで我慢して走ってんだったら……やばいんじゃね?
「すんませんっ」
声かけつつチャリ漕ぐ足を速め、みんなの脇を抜けて先頭走ってる加賀谷さんの横まで行く。
「あの、一番後ろの人、ふくらはぎか膝か、痛いんじゃないスか? このまんま走ってたらヤバいんじゃねーかなって」
コソッと言ったら、チラッと後ろ見て眉寄せ、二人へ先行くよう手振りしてクルッと逆走、遅れてた一人のトコまで行って声かけた。
「痛むのか」
「大丈夫です」
マジ顔でそいつは言ったけど、加賀谷さんの眉根に縦皺が刻まれた。
「……ちょっと止まれ」
「大丈夫です。乳酸溜まってるだけで……」
そいつが言い終わる前に、加賀谷さんは腕をつかんで立ち止まる。走ってるから後ろに引かれるみたいになって、咄嗟に足にチカラ籠もったんだろな、「うっ」声漏らしたそいつは膝のチカラ抜けたみたいで、崩れそうになったのを加賀谷さんが腕一本で支えた。
「無理するな」
厳しい顔で低い声で、叱るみたいに言う加賀谷さん! うわかっけー、マジかっけー、やっぱ神!
「怪我になったら終わりだぞ」
言いながら足に触れ、「熱持ってるな」と呟いてからギッと睨む目を向けた。そいつはくちを真一文字にして息飲むみたいに黙る。
「水飲んで休んでろ。帰りに拾う」
「……はい」
項垂れたそいつが道の脇に座るの見て、こっくり頷いた加賀谷さんが「ジャケット」つってこっちに手伸ばしたんで、
「はいっ」
慌てて脱いで渡したら、無造作にそいつの肩にかける。
「身体を冷やすな」
「…………はい」
ため息混じりの返事に頷くと、またこっち見た。おお~~~、いつ見ても凜々しい眼差し!!
「おまえ、コイツのそばにいろ」
「え!?」
いやいやいや、神映像撮るために来たんだしっ! ココは当然抗議するっしょ!!
「でも俺加賀谷さんの……っ」
「黙れ」
ギッと睨まれ、息を呑む。
「無理しないよう見張ってろ。分かったな」
そんだけ言って、さっきよりゆっくりペースで走り去る神の背中を空しく見送る。はあ、ため息出たけど、しっかり動画は撮る。
ンでもすぐ見えなくなった。う~~~やっぱがっかりするってー。
とか思いつつチラ見したら、ジャケット羽織って項垂れてる、わけで。
「あの、水飲んだ方が良くないスか」
とか声かけたけど動かない。
まだ痛いンかな、とか思っちまうし、やっぱ置いてくわけに行かねえしなあ、とも思うわけで。
「やっぱ痛いんスか」
横に体育座りしつつ、ため息混じりに声かけた。
「……大丈夫だって言ったのに」
項垂れたまま呟くみたいな声。
「てかこういうのって、いきなり来るんスよね~。加賀谷さん戻っても痛いまんまだったら、チャリの後ろ乗って帰りますか」
答えないし顔も上げない。う~ん、悔しいンかな? かもな。そういうの分かんないじゃねーしな~~、ココはいっちょ慰めるとかしとく?
てか俺ってそんなスキルあったっけ? なんて自分を疑いつつ、いちお目一杯明るい声出した。
「でもちょい休んだら、きっとだいじょぶッスよ」
肩とか背中とか叩いてみるべき? んな馴れ馴れしくしてイイのかな? 知らない人だしな。
「……素人が」
「へ?」
「経験者みてーな事言うな」
「え、いや俺、マジ経験者なんで」
「……は?」
そいつは顔上げて、コッチ睨んできた。
「膝やったんすよ。だいぶ前なんスけど、マジでいきなり来たんで、クッソ焦った~」
ニッカリ笑い返すと目を伏せ、「……悪い」ふて腐れたみてーな声出す。
「いや、もうだーいぶ前なんで、ゼンゼン平気っす」
「てか……タメだろおまえ。フツーに話せよ」
「ん? あはっ、そっかー、だなー。てかマジで、膝? ふくらはぎ?」
「膝……っぽい」
足の間に頭落とすみたいに落ち込んだ風情のそいつは「コウガミ」と呟いた。
「ん? なに?」
「俺、コウガミ。スポーツ科一年。おまえは?」
「安原。普通科一年。そんで加賀谷さんのシモベ希望!」
グッと拳握りつつ、こないだからの野望をくちにすると、コウガミはククッと笑った。
「……加賀谷さん……か。……なんかあの人すげーよな」
「あっ! やっぱそう思う!? だよねだよねサイコーだよねっ!」
またキタか推し語りタイム! 自然にテンション上がる。
「うん。なんつーか揺るがない感じとか。こっちまでやる気そそられる」
「分かる! なんつーかオーラが神々しいつか!」
「なんだそれ。……でも優しいとこもあるよな」
「そそ! なにげに優しいよね! 部屋まで入れてくれるし!」
「おまえ加賀谷さんの部屋に入ったの? 俺入ったことねえよ」
「いーだろー? なんつってもシモベだかんな!」
コウガミはプハッと吹き出し、
「だからなんなんだよソレ」
クククと肩を揺らす。おっ、元気戻って来た? ちょいホッとする。
「顔怖いし厳しいけど、日曜とか連休とか、食堂やってないときはメシ作ってくれたり」
「うあー、なにそれレア情報! ちょ、そこら辺もっと詳しく!!」
「あのひと料理までうまいんだよなー。成績もトップクラスなんだぞ、スポーツ科なのに」
「うんうん! そこら辺詳しく! まず料理! どんななの!? うまいってどんな風に!?」
「食いつくなあ。そうだな、一番うまかったのは……」
「うんうん!」
そこから語りはヒートアップした。
なにせそれまで知り得なかったレア情報をかなりゲットできたのだ。コイツ使える!
今後もコウガミとは仲良くやっていこう!
そんな決心と共に、途中からついて行けなくなったコウガミが引き気味だった事には、まったく気づかないままテンションをどんどん上げていたのだった。
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