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18.意外な才能
「やはり、おまえはおかしい」
「え~!? なんでッスか~」
とか言いつつ郁也は満面笑顔である。
なぜなら声の主、加賀谷泰史が背後から密着してるからだ。
というか椅子に座ってる郁也の横にコーチが立って指示してるので、泰史はベッドに立て膝状態でPCモニターに注目してるのだが、どんどん集中して、今や耳のすぐそばに頬が……なんなら触れそうな位置なのだ。ほのかに体温だの香りだの感じ取れるくらいで、至近の横顔を堪能したいところだが
「んん? ちょっと待って、もう一度教えてくれるか」
などとコーチが言うので、なかなかそうは行かないのがもどかしい。
とはいえ横顔チラチラ見てるし、ぶっちゃけこんだけで至福の喜び感じてる。
そのうえ神の手料理(と郁也は信じてるが、実は食堂のおばちゃん作である)を感動と共に食い終えた後、神のベッドに寝転んで匂ってみたり、本棚に並ぶ本をメモってみたり、引き出しやロッカーの中にある服とか見て萌え、下着なんかも……いやいやいや、ともかく充実した時間を過ごしてたわけで。
三十分ほどで二人揃って部屋に来たときには、めちゃんこハッピー、気分はアゲアゲだった。そのまま動画を見てるわけだが。
「だからどこだ」
「えっと……ああっと、ココ、ここらへんの動きとか、ちゃんとチカラ入ってないっぽくないすか」
「……ここらへん? すまん、もう一回戻してくれ」
なぜだか郁也に見えるものが二人には見えてないようで、もどかしい思いで何度も解説させられている。
「………………」
チラッと見た神の横顔は、眉間の縦皺がすさまじいことになってた。
「ここか?」
コーチの口調は柔らかいけど……分かってないぽい。
「そうっす! で~、逆にここらへん、無駄にチカラ入ってるぽいなあって。バランス悪いつか……でもいつものコウガミ知らないから違うかもって思って、でも、もし痛いのかばって走ってるンならヤバイかもって。そんで加賀谷さんに聞いてみたんス」
「なるほどな。うーん……それで加賀谷はどう思った?」
「……汗をかきすぎのように見え止まらせました。触ると熱を持っていたので、水を飲んで休むよう言いました」
「つまり、おまえが見ても分からなかった、ということか」
「………………」
画面を見たまま眉寄せてる加賀谷さんを見て、コーチは「ふぅー」と息を吐き、難しい顔で郁也を見る。
「だが……君は変だと思った」
「違うっす、分かったンす!」
だって明らかヘンじゃん? と言わんばかりの顔。
コーチは片眉だけ上げ、泰史に言った。
「これは、今後も彼に頼むことになりそうだな。色々と」
「………………」
眉寄せて不満げに目を伏せるのを見たコーチは、ククッと肩を揺らしたのだった。
そして「明日からは陸上部全体の撮影を頼む」とコーチに言われてしまい、
「ええ~~? でも俺……」
撮りたいのは神だけだと主張しようとしたのだが、他ならぬ神が「頼む」と言った顔が、苦虫を噛みつぶすような絶賛の可愛さだったので
「任して下さい!」
と胸を張った。
それで話は終わり、いつものように画像をダウンロードしてから入浴すると言われたので、おとなしく寮を出て帰宅中なのだが。
帰りのバスの中で、郁也は薄い本を取り出し、ニヘラと笑った。
これは、頼み込んで貸してもらった一冊である。
なにしろシモベにしてもらって可愛がってもらわなきゃ、なので、郁也は絶賛学習中。神のおそばにいるときは、もちろんその姿を見る方が大切だが、それ以外の時間をこの学習に向けているのだ。
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