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19.作戦、そして発見

 シモベにしてもらおう作戦そのイチとして、郁也は以前見たゲイビを改めて見直したのだが、記憶に間違いはなく、ほぼヤッてるだけだった。  ちげーよ、その前段階を知りてえの!  とキレながら雑誌とか買うことにして本屋に行ったが、めぼしいつかコレッ! と思えるものは無く、加賀谷さんが実家へ帰った翌日の日曜日に電車で遠征して大型書店で探し、良さそうなのを厳選して数冊買った。ついでに女子の会話聞いてて、ちょびっと興味のあったBLマンガも買った。  けっこう高かったけど、これで加賀谷さんに可愛がってもらうんだ~~、とか音符のつきそうな勢いでウキウキしつつ帰宅し、妹に「なに、気色悪い」とか言われながら部屋に飛び込みつつ、肩越しに睨んで言った。 「ぜってー入るなよ」 「入れって言われても断固拒否するよ!」  と怒鳴り返されたので、安心して部屋に入り、早速一番期待してた一冊を開く。ワクワクが止まらないままページをめくり…………ちょっと引いた。 「ふ、深けえっ! そんなトコ抉られたらっ!」 「おらおらおらぁっ! コレが気持ちいいんだろぉぅっ!」 「おおっ、ダメだ俺っ! たまんねぇよぉっ!」  やっぱりほぼ全編ヤってた。かなりオラオラな感じで。  他のも見たけど、ゲイの葛藤つか悩み抱えた同士が~的な重い話だったりして。  いやいやいやホンモノの人は大変なんだろな、とか分かるんだけど、求めてるの違うんだって! イヤゆくゆくはそんな感じもアリかもだけど、今はその前、超それ以前の段階なんだってば!  てか、ガチにゲイの人が読むような本、とか思って選んだのが失敗だった、ガチの人だとこういうコトになるんか、なんて反省含めてがっかりしつつ、しょーがねーからついでに買ったBLマンガを読みはじめた郁也は、目の前に濃く漂っていた霧が、パアッと晴れていくような感覚を体感した。  先輩を好きになった後輩の話があったのだ。 「こっ……これっ! そうだよこういうのだよっ!」  めっちゃ興奮しつつ真剣に読む。  どうやら慕ってる感じとかで、先輩はカワイイと思うらしい。  え~~、俺そんなら超オッケじゃん? めちゃくそ慕ってるし、もう好きだって言ったし! てことは、わざとらしくカワイイ素振りとかしなくてイイって事なんじゃね?  んじゃもうちょい頑張ればっ……!!  そんな風に考えが進み、世界が一気に明るくなったような気分で他のも読んでいく。 「ふう~ん」  とか 「ねえよ、ないない」  とか 「おおっ、これがデレかあ」  とか  心が軽くなった途端にくちまで緩くなっている。  色んなパターンあるんだなあなんて感心しつつ、徐々に近くなっていくこの感じ! これこれ、こういうの欲しかったんだって! と読み進めていくと、キラキラしたモテ男が登場した。  顔が良いだけでなく、頭も良くてスポーツもカッコ良くこなし、女子にキャーキャー言われ、男子にも一目置かれてる。主人公は反発してるっぽいけども、徐々に気持ちが変わってくってことかな。 「この人ずいぶんキラキラしてんな~。けど加賀谷さんほどじゃねえな。この程度じゃ輝きが足りねーっての」  なんて呟きつつ読み進めていた郁也は、やがてハッとした。  タカビーなモテ男かと思ってたら、倒れた主人公の世話したりしてなにげに優しさ醸し、料理まで上手というスーパーイケメン。いわゆるスパダリ。  それで主人公が言った「ありがとう」に赤くなったりしてちょびっとデレる感じが……  成績優秀、顔はイケメン、スポーツも県内有数の強者な加賀谷さん。いつもは厳しい顔してるし怖いこと言うけど、なにげに優しい。コウガミの足を気遣ってた感じや、手料理食わせてくれたりとか。  ドキドキしながら読み終えて、はぁ、と息を吐きだした郁也は、頬の赤らんだ顔で夢見るような視線を宙に遊ばせ、思わず呟いていた。 「……これこそ……」  つまりこのスパダリイケメンこそ 「加賀谷さんそのものだ……!」  と、いうことは! スパダリの攻略法を極めれば……!! 「うまいこと可愛がって貰えるって事だーーーーーーっ!!」  思わず絶叫していた。  隣の部屋から「うるさい!」という妹の叫びと壁を蹴ったような音が聞こえてたが、スパダリの出てくるヤツ全部読んで傾向と対策を! と意気込んでいる郁也の耳には入らない。  だがざっと調べただけでも、スパダリが登場するBL作品は星の数ほどあって目眩がした。  全て読むなんて無理、そこまで時間ないって! 神の鑑賞時間が減ったりしたら、なんのためにやってんだか分かんねえじゃん!?  そこで閃いた。  こういう時はプロに聞こう!  次の日朝イチで腐女子と名高いクラスの女子に相談した。 「スパダリの傾向と対策知りたいんだけど、なに読んだらイイ?」  これが昨日のことである。 「え、なになに安原ってBL好きだったの?」 「ていうかスパダリ行くんだ?」  妙にウキった声で聞かれ 「いや、スパダリッてか~~スパダリなひとが好きッてか~~」  なんてデレてしまって、きゃー、とか悲鳴を上げた彼女らに、なぜか美術準備室へ引っ張って行かれ、閉め切った個室で尋問まがいに問い詰められた。 「なに、誰なのよっ! 好きな人って男なの?」 「うちの学校の人!?」 「えっ」 「言っちまえ~! 誰にも言わないから吐け~!」 「いや言わねえよ!?」  「吐け安原、観念しろ」 「絶対味方するから! 言っちゃえ?」  とかなんとか脅しだかなんだか分からない問答の末、名前を出すことだけは回避しつつ、続報を必ず報告すること! という条件付きで本を貸してもらうことになった。  そして今朝。 「スパダリならコレっていうの厳選したから」 「どれも名作よ。決して汚さないでね。折り目もつけないよう、心して読んでね」  すっげ怖い顔で言われたのを思い出しつつ、帰宅まで待てずにバスの中で開いた薄い本は、キラキラしてたり妙にリアルだったりしたが、さまざまなスパダリがいた。 「う~~ん、なんか違うなあ。スパダリっても色々あんだな~。てか加賀谷さんの方が千倍輝いてるっつの」  うっかりバスを一駅乗り過ごしつつ、帰宅してから風呂の時間以外、みっちりスパダリ研究にいそしんだのだった。

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