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第3話

「凪」と呼ばれて目を開けると、翔太が僕を覗き込んで笑っていた。 帰って来たんだ…と、ホッとしたけど、ザワザワと周りがうるさい。不思議に思って周りに目を向けて驚いた。僕は、なぜか家ではなく賑やかな街の中にいた。 驚いて固まった僕の手を、翔太が引いて歩き出す。 「ぼんやりしてどうしたんだよ?よそ見してると転ぶぞ?ふふっ…」 「そんなにドジじゃないよ。…何笑ってるの?」 「ん?凪はいつも可愛いなぁ、と思って。その服、よく似合ってるよ」 いきなり褒められて、僕は照れて俯いた。ふと、僕の目に入った僕の服装に、思わず大きな声を上げる。僕は、膝丈くらいの長さの、花柄のワンピースを着ていたのだ。 「なっ、なにこれっ⁉︎なんでこんな格好してんの⁉︎」 「何言ってんだ、凪。前にネットで可愛い服見つけたんだって、喜んで買ってたじゃねぇか」 「ぼ、僕が…?」 「僕って。何その可愛い言い方。なぁ、今日どうしたんだよ?なんかおかしいぞ?」 おかしいのは翔太じゃん…。そう思ってもう一度、自分の全身を見る。そこで違和感に気づいて胸に手を当てると…。 「えっ!な、なんかついてる…っ」 「おまえ…ホントにどうしたんだ?そりゃあ胸くらいあるだろ。凪は可愛い女の子なんだから。最近忙しくて疲れてるんだな…。今日は早く帰ってゆっくり過ごそう」 「え…ちがっ…」 翔太が僕を抱きしめて、優しく背中をトントンと撫でる。 ーーなにこれ?どういうこと?僕、女の子になっちゃったの?それとも、これは翔太の願望…? 街中で抱き合う僕たちを、通り行く人々がジロジロと見て行く。呆れたような目や照れた目で見られるけど、嫌悪する目を向けられることはない。 ーーやっぱり僕が女の子だったらよかったのかなぁ…。もしかしたら翔太は、心のどこかで僕が女の子だったら、って思ってるのかもしれない…。 普段よりも優しく感じる翔太の腕の中で、僕はまた静かに涙を流した。

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