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第6話
唇を離してこちらを見て、三森は俺の濡れた口の端をすっと指で拭った。
「志生、お前の顔、やばい。物欲しそうな目も、だらしない口も、女よりずっとエロい。…あ、やっぱりここも反応してるんだ」
服越しにするりと指を股間の膨らみに当てた後、三森は躊躇なくベルトに手をかけた。下着が濡れているのはすでに気づいていて、見られたくないとも思ったし、やめてほしくないとも思った。またぎゅっと強く目を瞑った。
「やっ…三森っ…俺…」
勝手に腰が揺らめき、形だけのささやかな抵抗だということはふたりにとって明白だった。今までにない熱を含む、情動に流されてもいいという空気で全てが濃厚に満たされていた。
「どう見ても嫌って顔じゃないよな。ここも。さっきのキスでもうこんなにどろどろにしてるの?男って可愛い生き物だよな。こんな風に欲隠せなくて、曝されて恥ずかしがるくせに次々先から溢れさせて、恥ずかしげもなく期待してねだって。ほんと可愛い」
隠すことなど到底不可能なほど硬くなり、濡れそぼる自分のものを目の前に引き出される。三森のねっとりとした声を耳元で聞いて、恥ずかしさに気を失いそうだった。
「俺のこと、こんなに好きなの?」
「…ごめん、俺、三森のこと……好き、なんだ」
「こんなにぐちゃぐちゃにして、いつも俺に触って欲しいと思ってた?」
「……思って…た」
「ちゃんと言わないとしないって言ったよな」
「…触って、欲しい。…触って…」
「どんな風に」
「…わ、わからない…気持ちよくして、欲しい…」
声は掠れて消えてしまいそうだった。それなのに甘くねだるような媚が含まれているのが自分でもわかった。
発した言葉が合図となり、ぐちゅぐちゅと音を立て片手で強く擦り上げられ、泣きそうになる。先から次々と溢れる透明な液体は三森の手に伝い広がり、屹立に塗りつけられる。卑猥な音は欲望が溢れるたびに大きくなって耳を犯す。
「気持ちいい?すごいヤラシイ音、聞こえる?」
気持ちいいに決まっている。隠しようもなく体全部で反応してしまっている。息が上手くできないせいで声が出せなくて、こくこくと頷く。
「俺のこと、そんなに好き?」
もう一度頷く。やめて欲しくて、やめないで欲しくて、恥ずかしくて、たまらなく気持ちよくて。完全に相反して拮抗する気持ちに、心が千切られそうだった。それでも快感は泡みたいに体の奥底から次々と沸き上がっては光となって爆ぜる。
「イくっ…はぁ…っ…、み、もり…離して…お願い…だから…っ」
三森は解放するどころか力を込めてぎゅっと握りこみ、果てる方に向かって突き動かすように大きくスライドさせた。快感なのか怖いのかもうよくわからなくて、それらを全部を綯交ぜにしたもので身体中が埋め尽くされる。視界が真っ白に霞んだ気がした。
気づくと、勢いよく吐き出された白濁が三森の手と服をぽたぽたと汚していた。
「男がイくとこ初めて見た。すごいびくびくってなるんだな。すごいいっぱい出た…」
過ぎた緊張で意識を飛ばしそうになりながら、八年間片思いし続けた男の手でイかされたんだから当然だと思った。
そんなことはありえないと絶望しながら今まで何度もその手を想像して、何度も自慰をした。それがたった今現実になったのに、嬉しいという気持ちは不思議と全く湧かない。冷静なのか興奮しているのか訳のわからないコメントに、羞恥で倒れそうだった。
「ご…ごめん。服汚した…」
「ほんとだ。お前のでどろどろ。じゃあさ、お詫びに口でしてくれる?」
信じられないことの成り行きに目を見開き三森を見つめる。そらさない視線に本気だということが伝わった。
スラックスと下着を膝のあたりまで落とした情けない格好のままソファーに座る三森の足の間に膝をつき、デニムのボタンにおずおずと手をやる。勃起し始めていることがわかって、ほんの少しだけ緊張が緩んだ。それでも湿った皮膚に触れる手が震えた。
ほとんど勢いで先端を口に含むと、三森が小さな声を混じらせて息を吐き出したから、胸がとくんと鳴った。
自分が与える刺激に体を大きく震わせ、綺麗な顔を歪めるのはひどく官能的で、いつの間にか緊張を忘れ夢中になって舌と手を動かしていた。
「…やっぱ男のいいとこ、知ってるよな…っ…」
上目遣いで表情を盗み見る。薄く開いた唇にはやたら色気が溢れていて、セックスするときはどんな顔するんだろうかと想像せずにはいられない。どんな風にたまらないって顔をするのか、息を漏らすのか、腰を使うのか、見てみたかった。強く締め上げると胸を突き出し体をうねらせる。腰も揺れ張り詰めたものが喉を押し、えづきそうになる。
「志生、お前上手いよ。すごい奥まで咥えられんのな…はっ。イき…そ…」
どうすれば口淫でイかせられるかなんて、知らなかった。上手いやり方なんてわからない。とにかく受け止め、締め付け、吸い上げる。ちゃんと高みに向かっているのは触れる熱や息遣いからわかる。
口の奥に迸りを感じると自分の方が満たされ達したような心地がして、うっとりと微睡んだ。満足感の中で口の中のどろりとしたものを奥に流し込む。
「全部飲むとか、すごいな」
一言も発することができず、何の返事か自分でもわからないまま涙目で頷く。
「それ、どうするの」
下腹部に当てられた視線に気づき、じとりと腿の後ろに流れる汗を急に冷ややかに感じる。片手で自分のものを握り込んでいた。
「そんなに俺で興奮した?…見せろよ、俺のこと考えて、いつもどんな風にしてるのか」
「えっ…、む、無理…だって…」
「なに童貞みたいなこと言ってんの?」
童貞とかいう歳ではないから、余計無理なのだと言いたいのに、言われるままになればいいと心のどこかで思う。
もっと近づきたい、もっと好きだと伝えたい。想いをまっすぐ伝えさえすれば三森は気持ちだけでも受け止めてくれるんじゃないか、この一度だけでも肌を触れ合わせるところまで流されてくれるんじゃないか。そう期待しなかったと言えば嘘になる。
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