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第14話

 そして今、繋がっているところを確かめるように指でなぞられ、なにひとつ体裁を繕えず叫びそうになっている。触れたところから引きつるような刺激が伝わり全身がわななく。 「あぁ……アっ、はっ……やめっ…ろっ……さわっ…るな…」  声まで震え、そこに含まれる甘い響きに耐えられず手の甲で口を塞いだ。  言ってることとは反対に足をさらに開き、昂ぶるものを奥へと飲もうと中はうねる。何も知らない外側にある、異質なものを体は欲しがった。苦しくて、涙は流れて止まらない。  淵に触れらると嫌でも目の前の男と繋がっていることを意識させられる。はにかむように俺の手を引き、早く挿れてとねだった男はどこにもいない。触るのは、煽っているのでも嫌がらせでもなく、解れ具合を確かめているのはこれまでのやり方から知っている。その気遣いが余計に焦燥を募らせる。  男はこれ以上ないというほど細かい手順を重ねて秘所を解き、屹立を埋めた。初めてのものを無理なく受け入れさせるために、形も感触も温度もゆっくりと体に刻んでいった。 「や…めっ…、いっ…やだっ…」  唇を柔らかくつけられながら、前に指を絡め扱かれ意識が遠のく。本当に嫌だと体が訴えれば異物が排出されることを疑わないほど、男は俺の体を窺っていた。拒否して吐き出すのは簡単だ。そのはずだったのに。  嫌だ、苦痛だと意識の表面で叫んでいるのに反し、体は快感の端っこを捕え、引っ張り、こちらに引き寄せようとして離そうとしない。 「中、すごく熱くて、きつい。俺のにうねうね絡みついてくる」 「うる、さいっ……い、やっ…もういい、抜…けっ」 「大丈夫ですよ。すぐによくなりますから」  さっきから同じ言葉を繰り返し、何の慰めにもならない。嫌なら止めると言ったのに嘘ばっかりだ。完全に騙された。 「っは……嘘…つき…」 「あなたみたいな人、身を以って知った方がいいんです。自分の馬鹿さ加減を」  言っている内容とは全く逆に、長い指は優しく皮膚の表面を辿る。これ以上ないというほど、恋人ならばこんな感じだろうと思わせるほど甘く口づけられた。ずくりと体の芯が疼く。 「もう、動いていいですか?」  すぐ口元で言われたそのひと言で、一瞬でもこの男に優しさを感じた自分は本当に馬鹿だと思った。  止めると言うには遅すぎる。今から全ての空気を塗り替え、男を抱く気にもならない。それがこのまま流される理由になるのかはわからない。小さく頷くと、男はまた嬉しそうに笑った。 「嬉し…い…か?」  あまりに奔放このうえなく『嬉しい』と幾度も繰り返すから、こんな時でさえつい聞いてしまった。 「えぇ、嬉しいです。志生さんの可愛いところが見られて。俺の名前をいっぱい呼んで、いっぱい喘いでくれたらもっと嬉しいな」  また目元の涙を舌で掬いながら、男はあっさりとした調子で言った。自分で聞いておいて体が繋がっていなければ、殴りたくなった。暴力などふるったことはないから、そんな気持ちになったということだ。  男の緩やかな動きに合わせて腰が揺さぶられ、悲鳴を上げそうになる。実のところはいろんな言い訳をつけて、何度も手荒く犯したことへの仕返しではないかとすら思い始めた。 「……ぁああ……っ…あ…!」  されるがままになって匂い立つ欲求に任せ声を上げる。男の動きは性急ではなかったけれど、与えられるどんな刺激も今まで知らなかったもので、気持ちも体も追いつかない。ただ、硬いもので奥を突かれる度、これまで重ねてきた刺激が再び熱をもって爆ぜ快感として増幅されていくのがわかった。 「志生さん、俺のこと、ちゃんと見て名前呼んで」  やたらしっとりと囁くくせに、腰は強く奥を穿つ。名前を呼ぼうとして、すでに忘れてしまった自分に驚く。しばらく考えているうちにローションと流れ込んだ自分の精液にまみれて粘膜は擦られ、溶け出すほどに男のものを受け入れていた。じゅぶじゅぶと卑猥に響く水音の中で頭を働かせることなどできず、最初の音すら出て来ない。 「……も、いいや。忘れちゃったんでしょ。ちゃんと集中してください。俺だけ見て」  全くがっかりした様子もなく何も取り繕わない若い男の顔は、汗に濡れて綺麗だった。唇の色が鮮やかで、肌が荒れてなくて、意外に睫毛が長い。でも、顔も名前も、どんな特徴ひとつ、覚えられない。腰を揺さぶられながら真っ白な意識の中で男の顔を見つめる。

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