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第15話

 さっき指で擦り反応した場所をわざと狙っているのがわかる。でも、愛なんてちっともわからなかった。苛立ちと快感にまみれ、何を言いたいのかも、どうしたいのかもわからない。また噛みつこうとして、両肩をシーツに強く押し付けられ体を離された。 「俺のこと好きになってきました?」  ずっと奥まで繋がったまま見下ろされる。 『お前のこと想ってた』 『お前のこと大っ嫌いなんだ』 『いっぱい愛してあげるから』 『俺のこと好きなってください』  余計なことを言うから、ふたりの男に言われた言葉が意識の中に気泡のように浮かんでくる。わけがわからないほど体は快感に溺れていて、頭はごちゃごちゃで、胸は痛かった。嘘ばっかりだ。 「嫌い…、嫌いだよ…」 「まだ終わってないのに。もうフってくれるんですか。俺は、あなたのこと好きですよ」 『好きだよ、志生』  こんな言葉、嫌でも忘れられない。 「俺は嫌いだ!」 「じゃ、ちゃんとこっち見て言ってください。お前なんか死ねって」 「そんな…そんなひどいことあいつに言われてない…」 「言われたみたいなもんですよ」 「酷い…!」  鼻の奥がつんとして、さっきまでとは違う涙が流れていた。 「こんなになっても、まだあの男のこと考えてるんですか?酷いことされたくなければ、その時何とかすればよかったんです。告白でも押し倒すでも何でもして、無理やりでも何でもヤりたければ好きにすればよかったんですよ。いいじゃないですか。終わる前は幸せな恋に浸ってたんでしょう」 「うるさい。最中におしゃべりな、男は…嫌いだ…」 「泣いてるくせに。志生さんってほんと馬鹿」  肩に置かれた手の力が抜けて、代わりに唇を濡らされた。柔らかく唇を食まれ、差し込まれた舌に唾液を絡め掻き回され、意識が混濁していく。嫌という程優しく口腔を愛撫され苛立ちは募る一方だ。男が緩やかに腰を旋回させるから、下肢も頭も甘く痺れる。  好きだった。男に言われた通り、その気持ちを押し込めて最後まで何もしなかったのは自分だ。全てを紛らわしてごまかしているつもりで欲望を垂れ流し、全部見透かされていた。それでも束の間の幸福に無為無策に浸って、何ひとつ残り得ないものにこだわった。  好きだった。好きだったから仕方なかった。揺さぶられる体と一緒に心が揺れて感情が溢れる。もう何も無防備に外に出したくはないのに涙がこぼれる。 「ほんと馬鹿で可愛い」 「可愛いって、言うな…。嫌なこと、思い出す」 「俺はフラれても、あなたのこと好きです」  どうして抱かれてもいいなどと、思ったんだろう。知りもしない男に。好きにされてもいいなんて。腰を散々打ち付けられ、奥まで突かれて、ぐちゃぐちゃにされて。 「好きだよ、志生」  言葉が胸を刺す。音と記憶が重なり混じり重たくのしかかる。答えに詰まった。演技を続ければいい。 『嫌いだ』 「……俺も好きだよ」 「志生さん、答え間違ってる」  嬉しそうに言って小さく笑った。   男は抱く側も随分と手慣れていて、拒否する気など微塵も起こらないほど身体は蕩けだしていた。痛みだと思っていたものが違和感に過ぎないとわかると、快感に身を委ねるのは難しくなかった。  中心の立ち上がりを扱かれながら緩急繰り返す抽挿に体を揺さぶられ、高みに連れて行かれた。たまらない疼きに体をびくりと反らせ腰を痙攣させる。ふたりの皮膚の間が吐き出されたもので滑る。それでも男は肌を合わせ背中を撫でる事も忘れない。優しくしなくていいと言いたかったけれどそんな余裕もない。 『俺もイってもいいですか』と聞かれ頷くと、痺れの余韻が残り敏感になった粘膜が容赦なく擦られ、思わず呻く。されるがままに流されることを完全に覚える頃、体の中で男のものがびくびくと震えるのがわかった。  その後体を摺り寄せるうち、自分からねだるような形になってもう一度抱かれた。どろどろの快感の中で意識を手放す。いや、感情を吐き出して、ただ眠たくなっただけかもしれない。  眠りに落ちる寸前、『志生』って呼んだのは一度だけだったなと、なんとなく思った。

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