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斑鳩SIDE 1
大好きな星流が卒業した。
来年度も書記に決定している俺はそのまま生徒会に居座るが、自分以外の役員は全員代わる。
既に新役員とは引き継ぎの為何度も顔合わせをしているが、違和感しかない。
会長は眼鏡掛けた如何にも真面目そうな人。実際有り得ない位真面目だ。
副会長は綺麗で人気があるけれど、星流の方が好き。
会計はテニス部に所属しているから以前の芹生会計同様忙しくなりそう。
皆悪い人じゃなさそうなんだけど、仲良くなれる気がしない。
前回は最初っから星流と会計が親友だったし星流が甘やかしてくれたし書記も軽かったから直ぐ仲良くなれた。
眠くて寝てても軽く注意されるだけで怒られる事はなかった。
だけど今回は違う。
少しの居眠りでさえ怒られるし、欠伸しただけで睨まれる。
多分これが当たり前で今迄が甘過ぎたのだろう。
分かってはいるんだが、嫌なもんは嫌だ。
めんどくさい。
あ~星流に逢いたいなぁ。
寂しい。
ねぇ星流、今すぐ学校止めてそっちに行って良い?
って、怒られちゃうからダメだよね。
なんで同じ年じゃないんだろう。
たった1つなのに、物凄く離れて感じた。
3年に進級し、正式に新生徒会が始まった。
まだ大丈夫だけど、大学受験もしなきゃいけない。
嫌だけれど、頑張れば星流と同じ大学に通える。それだけが心の支えだ。
今迄ダラダラ寝ていたけれど、同じ大学に行きたいなら頑張って勉強してね?星流に言われたからには頑張らなければいけない。
だけど眠いもんは眠い。
必死に目を開けるが、勝手に閉じてしまう瞼。
なのでノートは諦めた。
書いてても気が付いたら消されて新しいのが書かれているからだ。
取り敢えず意識がある間は先生の話を聞く様にした。
一応念の為隣の席の人に毎日放課後ノートを借りてコピーする。
先生もクラスの人達も今迄と変わった俺に驚いていたが、一番ビックリしてるのは自分自身。
寂しくて逢いたくて同じ大学に行きたくて。
それを糧にしたら頑張れる様になった。
相変わらず眠いのは変わらない。
だけど目に見えて明らかに、俺の睡眠時間は少し減った。
コピーをしてノートを返したら、向かうのは生徒会室。
今迄は星流が居たし、皆友達感覚だったから楽しかった。
だけどもう其処に星流は居ない。
居るのは生真面目な会長だ。
少しでも気を抜くと寝てしまう。
怒られたくない一心で急いで書類を終わらせてソファーに移動。
する事さえすれば怒られない。
なので毎日俺は面倒だけど出来るだけ早く仕事を片付けて皆が終わる迄寝る。
人が変わっても部屋・家具・道具等は変わらない。
此処に寝転がると落ち着く。
目を瞑ると広がるは以前の光景。
其処に居るのは俺を優しく甘やかしてくれる星流とそれを見守る会計と羨ましがる副会長。
斑鳩。俺を呼ぶ声は甘く柔らかく心地好い。
(…………星流……)
星流に貰ったクッションに顔を埋めながら目を閉じた。
因みにクッションは毎日星流に抱き締めて貰ってるから星流の匂い付き。その点は抜かりない。
生徒会の仕事が終わり、校門に向かうと
「お疲れ様」
其処に居るのは大好きな大好きな星流。
「星流ぁ~」
今迄疲れてクタクタだった身体が一気に復活する。
多分毎日この瞬間、俺は見えない尻尾を引き千切れんばかりに全力で振っているに違いない。
卒業時に約束した通り、毎日星流は俺を放課後迎えに来てくれる。
だが
「はい、わんこ離れて」
いつももれなく芹生会計か星流の婚約者の廣瀬さんが着いてくるのは止めて欲しい。
因みに今日は芹生会計だ。
「星流、チューして?」
「ふふ。もう斑鳩は甘えんぼさんだなぁ」
チュッ、頬にされるキス。
そのまま唇を合わせようとしたら
「だから甘やし過ぎだって」
引き離される身体。
むぅぅぅぅう、邪魔。
コッチは星流不足なんだ。
沢山甘えて良いじゃないか。
補充しなきゃ生きていけない。
「俺だって触れたいのを我慢してるんだ」
言われ、この二人って複雑な関係だよなぁ。改めて思った。
星流と芹生会計は元許嫁だ。
多分互いにまだ好き同士に違いない。
だが星流には運命の番である婚約者が居る。
星流が高校卒業後直ぐ結婚する予定だったが、まだ星流の心の準備が出来てないって理由で先延ばしになっている。
だけど明らかに星流は流されに流されてるっぽい感じ。
きっと結婚はそう遠くないだろう。
星流がお嫁さん。良いなぁ、羨ましい。
「なぁ斑鳩、生徒会上手くいってるか?」
「ん、多分。でも楽しくない」
芹生会計に言われ素直に返す。
「そっかぁ。まだ知り合って間もないもんね。早く仲良くなれたら良いね」
優しく星流に言われたが、もしなれてもソコ迄は楽しめなさそうな気がした。
それ位前が良すぎたのだ。仕方がない。
「コレしといて」
副会長から渡される書類。
「ヤダ、コレ会計のヤツだからしない」
どうやら思ってたより部活と生徒会役員の両立は難しいらしい。
芹生会計が上手く出来ていたのは要領が良く、優秀だったからみたいだ。
会計は去年大丈夫だったから今年もいけると思ってたみたいだが、役員の仕事放棄して部活に行くのは間違ってると思う。
会長と副会長は忙しい。
対して俺は少しでも早く休みたいが故に早く仕事を終わらせて休憩しているから暇に見られがちだが、断じて仕事量が少ないワケではない。
大好きな睡眠時間を作る為にスピードアップして作業をしているんだ。
なのに
「今日中に終わらせなきゃならない書類なんですよコレ。今此処で暇なのは貴方だけでしょ?」
するのが当たり前みたいに書類を渡されて
「副会長嫌い」
諦めて机の中から電卓を取り出した。
書記の仕事は去年もしてるから流れが分かる。
生徒会の顧問も去年と一緒で気が楽だから継続を頼まれた時断らなかった。
だけど会計の仕事迄させられるとは想像もしてなかった。
こんなんになるんなら断ってれば良かった。
まぁ一応会計も部活がない時は真面目に仕事をしてくれるが、殆ど毎日部活に行くから居ないのと変わらない。
お陰で睡眠時間は減るし、不満しかない。
「どうしたの?斑鳩」
星流の部屋で無言で抱き着くと、俺が落ち込んでいたのが分かったのだろう。
星流に聞かれた。
「疲れた」
生徒会の事を口にすると
「うわぁ、何それ酷いね」
「お前それ顧問に相談しろ」
「役員変更して貰うべきだね」
星流・芹生会計・廣瀬さんが順に口を開く。
やはり会計変更して貰うのが良さそうだ。
明日役員と顧問に相談してみよう。
真面目に受験勉強を始めた俺の為に、星流が毎日勉強を見てくれる様になった。
幼少期から睡魔に愛される俺は過眠症らしいが、優秀なαの血のお陰か思考や発声の遅延、幻覚・記憶障害、勉強や仕事においての能力の欠落等の欠点は一切ない。
だが人間の三大欲求である食欲・性欲は殆どない。
多分睡眠欲が強過ぎるからだろう。
一応食事は与えられた物を食すが、言われなければ何も食べない。
性欲も他の人と違い、自慰等はしない。
αの強過ぎる性欲のせいで溜まるが、どうでもよくて放ったらかしていると、毎朝知らない内に夢精しているらしく下着が酷い事になっている。
不便だ。
小学生の頃から始まった勉強。
今に至る迄一応理解はしているつもりだが、やはり寝ていて聞いてない事の方が多い。
なので星流と同じ大学に行く為には基礎から色々覚え直す必要がある。
星流の通っている大学は偏差値が物凄く高い。
このままじゃ余裕で落ちる。
放課後迎えに来てくれた後そのまま星流の部屋に集まり勉強会が始まる。
が、星流もまだ学生の為自分の勉強もしなければいけない。
それを補う為、毎日星流・芹生会計・廣瀬さんの3人が交代で教えながら、自分達の勉強もする流れになった。
勉強は好きではないが、皆でするのは嫌じゃない。
それにどんな時間であろうが、星流と居られるのは幸せだ。
綺麗な横顔を見ながら
「星流大好き」
口にすると
「ほんっと斑鳩は可愛いね」
星流は甘く優しく微笑んだ。
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