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第16話

 クルーズ船の中は広くて何でもそろっていた。  レストランやバーはもちろん、ダンスホールに映画館、フィットネスジムにサウナ、プールにテニスコート、葉巻を楽しむシガールームからカジノまで。  クラシックの名曲をジャズアレンジしたナンバーを演奏しているバーで、リカルドの髪をくるくると指に巻きつけて加賀美はゆったりソファにもたれた。 「アキトはすごくモテただろう?」 「リカルドこそ。噂をたくさん聞いたよ」 「へえ、どんな噂?」 「素敵な噂ばかりだったよ」  ぽんぽんと肩を叩いてやると、リカルドは渋い顔になる。友人のミケーレはたいそうな遊び人で、彼と一緒にいるリカルドは同類だと見られている。 「ところで、カジノへ行ったことは?」 「ないな」 「やってみる?」 「いいね」  初心者でもできるルーレットに座った。簡単なルールは知っている。何度か賭けるうちに増減しながら少しずつチップが減っていく。  ギャンブルの才能はないらしいと、残りを全部一点賭けにした。 「どういう数字?」  黒の17に意味はあるのかとリカルドが問いかけた。 「つき合った男の数?」  ささやきに呆れたような目線が返る。  ふふっと口元だけで笑うと「からかってるのか」と苦笑を滲ませた。 「とんでもない、真剣勝負に決まってる」 「じゃあ僕とも勝負しよう」 「いいね、何を賭ける?」

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