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第21話
ガーデンパーティでミケーレに会った。3月終わりの暖かな日で、ミケーレの金髪が日に透けてきらめく。数人に挨拶したあと、ふと思い出したようにミケーレが尋ねた。
「そう言えば、彼どうだった?」
「ん? どの彼?」
「相変わらずだな。あの日本人だよ。もう寝た?」
「ああ…。寝てないよ」
「あれから2週間も経ってるのに? 逃げられたか?」
「いや、3回デートした」
「ああ? デートぉ?」
ミケーレが眉を寄せ、うろんな目つきになる。
「お前、何やってんだ?」
いつもの早食いっぷりを知っているミケーレは、信じられないと言いたげだ。
「あの日はキスして泊まったけどそれだけで、2度目は船上パーティに連れて行って、この前はオペラを観たよ」
「なんだそれは。3回も会ってキスだけ? そんなにガードが堅いのか?」
「いや全然。迫ればいつでも寝ると思うけど」
加賀美のガードなんてあってないようなものだし、正直に言うならキスは唇にだけではないのだが、それは教える必要はないだろう。
「じゃあ何やってんだ?」
「何だろう。…恋愛ごっこかな?」
「恋愛ごっこ? 恋人のふりって?」
「ふりというか、デートしてキスして食事して…。意外と楽しいぞ」
加賀美はどこに連れて行っても、微笑んでいるだけで人目を惹きつける。きれいな顔立ちだが、どこかやんちゃそうな子供みたいな雰囲気がある。
きらめく黒い瞳で見つめてくるのに、口を開けば人を弄んではぐらかす事ばかり言う。
「へえ…。何か高価なものでもねだってくるとか?」
「そういや、それはないな」
スーツを数着押しつけたが、加賀美が何かをねだったことはない。
「へえ。健全なおつき合いってわけか」
「さあ…」
どちらかと言えば不健全なおつき合いの気がするが、ミケーレの誤解を解くつもりはない。
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