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第25話
簡単に請け負った加賀美に、当日、連れて行かれたのは意外にも彼の自宅だった。
古いアパートだけれど日当たりがよく、キッチンは最新式のものにリフォームされていた。前に住んでいたのがやはり料理人で、このキッチンを見てここに決めたと言う。
カジュアルな服装でと言われたのはこのためか、とエプロンを渡されて理解した。
「僕も作るのか?」
「ええ、でも簡単だよ。海苔に酢飯とネタを乗せて巻くだけ」
大きな海苔と新鮮な魚介が用意されていて、平たい木のボウルには白飯が入っていた。酢飯、シャリというのだと教えられた。
「シャリは少なめに、真ん中に薄く置いて。そうそう、ネタは好きなのを」
「こんなに色々混ぜてもいいんだ?」
リカルドの知る寿司は、一口サイズでネタは一つしか乗っていない。
海鮮巻には好きなだけ入れていいと説明して、加賀美はサーモン、イカ、エビ、イクラ、玉子焼きなど数種類を豪快に乗せてしまう。
「こうして巻いて。米をつぶさないように強く巻き過ぎないで」
お手本に一つくるりと巻いて見せてくれたので、どんな食べ物か理解した。
まきすを使って巻くが、案外思い通りに巻けない。酢飯を置く位置と量が重要なのかと加賀美の手元を見て気がついた。
3本目でなんとか格好がつく巻き寿司になった。
「これでどう?」
「ああ、いい感じ」
誉められて思わず頬を緩めてしまった。こんなことくらいで、と自分で驚く。料理を作ったのも初めてなら、それを誉められたのも初めての経験だ。
「食べやすいようにこうして切ってもいいし、そのまま丸かじりすることもあるよ」
加賀美が切ってくれた巻き寿司を一つつまんで食べてみた。寿司屋で食べる握りとは趣が違うが、予想以上においしい。
「うまいな。これは家庭料理?」
「そう。店でも売ってるし、家でも作る」
大きな皿に盛ってテーブルに運ぶと、アボカドとグレープフルーツのサラダとハマグリのお吸い物が添えられた。彩りやセッティングがやはり料理人だと感心する。
「料理ができるってやっぱりいいな」
「自分のためにはしないけどね」
「そうなのか? 食事は?」
「店で立ったまままかない食べて終わり。でも気になる味は作ってみたくて、キッチンにこもってることが多いかな」
自分のためには料理しない男がわざわざ自宅に招いてくれたと思えば嬉しかった。意外と自分も単純だ。
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