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第31話

 まず、加賀美の選んだこじんまりしたビストロで夕食を食べた。  気取らない家庭料理の店で、小さな魚をガーリックオイルで炒めてレモンをかけたものが絶品だった。シンプルなマルゲリータとアクアパッツァをシェアして食べる。熱々でどれもとてもおいしい。  普段の加賀美はこういう店で食事しているんだろうか。店主が出てきて加賀美と少し話をしていたから常連なのかもしれない。  映画館ではカジュアルショップで弄んだ詫びなのか、ずっと手をつないでいちゃいちゃと恋人らしく触れ合っていた。  もっとも加賀美の手は自由にさせておくとさらに不埒な振る舞いに及びそうになったので、それを止めるためにもリカルドは手を離すわけにはいかなかったのだが。   ゲイバーでは加賀美はリカルドにぴったりくっついて、何度もキスして甘い空気を振りまいた。そのせいか、声を掛けてくる男はほとんどいなかった。  猥雑な雰囲気の店だったが、適度に大人ばかりが出入りしていて意外と居心地は悪くない。  とはいうものの加賀美の友人かセフレか数人が親しげに挨拶したのは気になった。彼らはリカルドにも気安くて、ワインを飲みながらサッカーや映画などの話をした。  帰りのタクシーで加賀美はいたずらっぽく尋ねた。 「社会見学はどうだった?」 「意外と楽しかった」 「それはよかった」 「いつもああいうところで遊んでいるのか?」 「そうだね。まああんまり飲みに行く時間とかないけどね」  飲食店勤務の加賀美は不規則な勤務なのだ。  それを聞いてほっとする自分は、思ったより加賀美にハマっているんだろうか? 「どうかした?」 「いや…」  胸に感じるもやもやは何だろう?  加賀美の日常に触れたようで嬉しいような、別世界を見せられて戸惑うような…複雑な気分だ。  バーで声を掛けてきた連中は本当にただの友人? それとももっと親しい関係? 一人とても熱っぽい目で加賀美を見ている男がいた。  ことさらリカルドにくっついていたのは彼に対する牽制? でもそんなことを問いただすのは気が引けた。  今日は気まぐれに恋人扱いしてくれただけで、本当はそんなことを思っていないことは知っている。  シャワーで染料を流しながらリカルドは考えた。  僕はアキトを手に入れたいのかな?

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