32 / 33

第32話

 昼間の明るい陽射しが差しこむ寝室は、くすくす笑いが響いていた。  いつの間にか陽射しは初夏のものになっていて、窓の外には新緑が広がっている。  リカルドの部屋の大きなベッドの上で、二人は裸でじゃれ合って口移しでワインを飲ませあっていた。  ここで抱き合うのももう3度目になった。王子様の髪は乱れていて、色っぽさが倍増している。リカルドに憧れている女の子たちが見たら失神ものだろう。  さっきまで濃厚にセックスして戯れ合ったベッドのシーツはくしゃくしゃだ。しどけなく寝そべる加賀美にリカルドが腕を回して引き寄せた。 「ねえアキト、僕とつき合うって言ってよ」  甘えた表情でリカルドが囁いた。  今日あけたワインで加賀美からのプレゼントは終わりだ。  贈った酒は加賀美とセットだと彼は言った。  言葉通りなら、これで終わりということになる。  でもリカルドは今日で終わりにしたくなかった。 「ね、Si と言って」 「言わなかったら?」 「言うまで帰さない」  ふふと笑って加賀美は起き上がる。 「素敵な口説き文句をありがとう」  さらりと躱して頬にキスした。 「僕は本気だよ」 「そうかもしれないね」  これっぽっちも信じていない顔でうなずく。ベッドを下りようとするから、両腕を腰に巻きつけた。 「帰さないって言っただろう?」 「ええ。でも今日は早番なんだ」  仕事だと言われたら無理には引き留められない。  自分だって責任ある社会人としての地位はあるし、加賀美にも立場というものがある。イタリアンの名店で修業中の加賀美は、私生活は奔放だけれど仕事には真面目でストイックだ。 「いっそのこと閉じこめてしまいたいのに」 「そうなったら、俺に興味なんて持たないだろ?」  加賀美はわかっているのだ、リカルドが遊びで声を掛けたことを。 「僕のものになる気はない?」 「きっとすぐに飽きるよ」 「どうしてそう言える?」 「リカルドは手に入った物には執着しないタイプだろ?」  その言葉にリカルドは黙り込む。  確かに今まで、恋愛相手に執着したことはない。

ともだちにシェアしよう!