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第9話
離れ離れになった2年間は思った以上にしんどかった。
やっぱりなかなか会えない。一つには金が無い。うちの高校はバイトが禁止されていて、親からもらう小遣いだけではたかが知れている。
純太も専門学校の学費と2年間のアパートの家賃分は両親が亡くなった時の保険金をお祖母さんが管理して残しておいてくれたらしいが、学生であるのでアルバイトに使える時間も限られている。それでも、特急のチケットを買って送ってくれたこともあった。
もう一つの問題は、俺が東京へ度々遊びに行く理由だ。
純太との関係は誰にも秘密だったし、親はたまたま近所で同じ高校に通っていたそこそこ親しい先輩としか思っていないわけで、連休の度に純太に会いに行くのは不審がられてしまう。
出来る事なら夏休み中、純太の部屋に居たいぐらいだったがそうもいかない。地方公務員の父親の給料で下に兄弟もいるのに、わざわざ東京の大学に行かせてもらうという目的のためには、不純な動機がバレないようにいい子にしておかなければならなかった。
純太が里帰りできれば良かったのだが、お祖母さんも高校卒業前に亡くなっていたし、上京前、叔母さんに「これでもう責任は果たした、やっと厄介払いできる」というような嫌みを言われていて、純太に窮屈な思いをさせるのは嫌だった。
結局その2年間は数えるほどしか直接会えなかったけれど、二人の熱は冷めるどころかますます高まって、俺は東京の大学へ進学、純太は国家試験の合格と美容室への就職を確実にするため、お互いを励まし合って頑張った。
晴れて大学に合格し上京を果たした俺は、大学近くの学生向けアパートしか親の許可が下りずそこで独り暮らしを始めたが、すぐに純太の部屋に入り浸るようになった。
というのも、無事美容師の免許を取り、都内の美容室に就職した純太の毎日が過酷で、そうでもしないとなかなか一緒に居られなかったからだ。
当然土日は休みではないし、まだ国家試験に受かっただけのアシスタントという立場で、営業時間中はひたすらシャンプー、掃除、先輩の手伝い。営業時間が終わってからやっと練習が始まるので帰宅はかなり遅い。たまの休日にも研修が入る。
だから俺が、まだ慣れない手つきで四苦八苦しながら晩飯を作り、くたくたになって帰って来た純太と一緒に食べる。
今まで自分が甘えてばかりだったのに、純太が「浩司ぃー、ありがとな」と疲れた体で寄り掛かってくれるとなんともくすぐったい。
シャンプーのし過ぎで荒れた白い手にせっせとハンドクリームを塗り込んでやり、うつ伏せにさせ腰のマッサージをしてやると「あー、極楽ぅ」と言いながらやがてウトウトし始める純太が可愛くて、こういう幸せもあるんだと知った。
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