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第12話
2年の夏。大学の夏休みに、所属しているツーリングサークルで10日程かけてツーリング旅行に行くことになった。母親が帰省しろと煩いのでその帰りに里帰りも済ませてしまうことにする。
上京してから半月も離れるのは初めてだったが、純太はどうせこっちは仕事だから学生らしくゆっくり楽しんで来いと言った。
結局帰省したら、地元の友達から声が掛かったり、急遽ミニ同窓会みたいなのが開かれたりして、更に東京に戻るのが遅くなった。
俺がいない間、純太はちゃんと晩飯食ってんだろうか、腰のマッサージしてやれなくて疲労が溜まってんじゃないかとか気になったが、電話で話す純太は心配するな、大丈夫だと言う。だが微かな違和感も感じて、俺に気を遣わせないように無理しているのかと思っていた。
しかし、東京に戻って、その違和感はもっと強くなったのだ。
「なあ純、どうしたんだよ?なかなか帰ってこなかったら拗ねてんの?悪かったよ」
だが純太は曖昧に首を振るばかり。その体を抱いても、どこか上の空だ。
そしてある夜とうとう、信じられないことを口にした。
「浩司、ごめん。別れてくれ」
「はあぁ?!」
我ながら素っ頓狂な声が出た。まったくもって青天の霹靂で、受け入れられない以前に理解ができない。
「なんでっ!?どういうことだよ!」
「好きな女が出来た。お前の留守中に、俺、浮気した」
ドンと高いところから突き落とされたようなショック。
浮気?
女?
思わず純太の胸ぐらをつかんでいた。だが、その手がブルブルと震えてしまう。
「浮気…純、女を…抱いたのか?」
俯いたまま頷く純太に血が沸騰するような怒りが湧く。
「女抱いて…やっぱこっちの方がいいって、そう言う事かよ?」
自分で口にして怖くなった。
怒っている場合じゃない、ほんとに純が女に走ったら…嫌だ、こんなに惚れてるのに。
そこからは「単なる浮気なら許すから別れるなんて言うな」「今まで上手くやって来たじゃないか、俺に純が必要なんだ」と必死で縋ったが、純太は「ごめん、許してくれ」と頭を下げるばかりで頑なに俺を拒む。
どこのどいつに惚れたんだと迫れば、店に来ていた客だという。今まで女なんて見向きもしてなかったじゃないか、本当は男なんじゃないのかと疑ったが、その女と結婚するつもりだとまで言われて打ちのめされた。
たった3週間で世界が変わってしまったというのか?
そんな馬鹿な!ツーリング旅行に行く前に「気を付けろよ」と交通安全の御守を買ってきてくれたのは純太じゃないか。
俺の建築士になる夢を応援してくれるって、いつか純太が自分の店が持てるようなったら俺に設計してもらうって言ってたじゃないか。
短期間で全てを変えてしまうほどの女に出会ったというのか。
それとも俺が気付いていなかっただけで、ずっと前からその女とできていたのか。
もう何が本当なのか分からない。
毎夜のように喧嘩になった。いや、喧嘩じゃない、俺が一人で怒ったり説き伏せようとなだめすかしたリ、泣いて縋ったりしただけだ。
興奮する俺に純太は平謝りするだけで・・・、悪い夢でも見てるんじゃないかって最初はまるで現実感の無かった別れ話がじわじわと現実に起きていることだと徐々に俺に浸透を始め、どうしたらいいんだと焦りばかりが濃くなった。
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