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第13話

大学の後期が始まってすぐ、学内で純太からのメッセージを受信した。 大学近くのファミレスに居るから講義が終わったら来て欲しいとあった。 初めてのそんな呼び出しに嫌な感じに胸が騒ぐ。 やっぱり悪い話?だがこれ以上悪い話なんてあるか? もしかして、思いとどまってくれたのか? どうかそうであってくれと一縷の望みを抱いて足を踏み入れた店内。 待っていたのは純太一人じゃなかった。 隣に座る、華奢で可憐な花のような色白の女性。 純太より年上に見える彼女は最初、おとなしそうに純太が話す横で時折さらさらした髪を揺らせながら頷いて同意を示しているだけだった。 だが「あなたを傷付けて申し訳ない、でも私達は結婚するつもりなので別れてください」と訴える目はこちらを狼狽えさせるほど真剣で、一歩も引かぬ覚悟のようなものさえ感じさせた。 やがて、純太の「そろそろ戻らないとまずいだろう?」と優しく気遣う声に彼女は深々と頭を下げてから立ち上がる。その折れそうに細い体に純太がそっと手を添え二人寄り添うように出ていくのを、俺は呆然と見ていた。 あんまりだ。純太を取り合っている彼女と自分があまりにかけ離れていて笑えてくる。 人並み以上のごついガタイの歳下の甘ったれたガキの俺と、守ってやらなければと大方の男が思うであろう儚さながら、年上らしい落ち着きと控えめな芯の強さ。同じ土俵に乗っかてること自体おかしい。 それに「結婚」という言葉を出されると俺は何を言っていいのか分からなくなる。生活力以前にまだ親に学費を出してもらっている未成年だし、男同士だし、付き合ってることすら誰にも話せていない。 それにしてもいきなり結婚だなんて…年上の彼女が早く結婚したがっているのか?純太は早くに両親を亡くして家族愛に飢えていたから、まだ22歳になったばかりなのに家庭を持ちたくなったのか?もしかすると、もう妊娠でもしているのだろうか。 とぼとぼ帰った自分のアパートのベッドの上で膝を抱えて悶々と悩んでいたら、宅配業者が段ボール箱を2つ運んできた。 送り主は純太。中身は純太の部屋に置いていた俺の私物、全て。 なんだよこれ!俺、まだ納得してねえよ! カッと頭に血がのぼって、バイクの鍵をひっつかんで飛び出した。 さっきはか弱い女を前に怯んでしまったが、やっぱり純太を失うのは耐えられない。ガキの頃から俺の世界は純太を中心に回ってるんだ。 純、純。好きだ。心底惚れてる。俺ももっと大人になるから、俺を棄てないでくれ。 純太のアパートへバイクをとばす間浮かんでくるのは、大好きだった純太の笑顔。もうあれが見られなくなるなんて、純太が他の誰かのものになるなんて、そんなの嘘だろ。 気を緩めると視界が滲んでくるのを必死にこらえ、赤信号の度に焦れて早く変われと罵りながら辿り着いた部屋の明かりは消えていた。 女のところへ行っているのか?朝までには帰って来るのか? 明日の講義なんてどうでもいい。純が帰ってくるまで待つつもりで合鍵を差し込もうとするが、ガチャガチャ音がするばかりで上手くいかない。 落ち着け、俺。鍵、間違えてんじゃねえよ。 だが、何度確かめてもそれは純太の部屋の鍵で。 まさかと思いながらスマホのライトで鍵穴を照らせば、ドアについている丸い金属がやけに綺麗な気がする。まさか鍵を替えられた!? ショックと怒りで金属のドアを思いっきり蹴り上げる。中に人の気配はない。こうなったら帰ってくるまでここでいつまででも待ってやる。 ドアの前にどっかと腰を下ろし夜を明かした俺だったが、翌朝早く隣の部屋から出てきた爺さんの「たぶん、そこ、引っ越したよ。昨日業者が来てたみたいだから」という言葉に打ちのめされた。

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